崎谷先生が、黒板にグラフを書いて説明している。壁の時計は、もうすぐ授業の終わりの時間だ。

「この値が倍になると、グラフもこう…、y軸方向に二倍伸びるわけだ」

三角関数のグラフを、白いチョークですいすいと描いていく。二倍、と言いながら赤のチョークで数式に「2」を書き足していた。そこで丁度良くチャイムが鳴り響いた。

「よーし。金曜日に今日までの範囲で小テストするから、しっかり勉強して来いよ」

どんな先生からだろうと、「テスト」の言葉は嫌なものだ。今週は世界史だって小テストなのに、これ以上俺たちをどうするつもりだー、などといった声があがった。沙耶としても、やはり気分は重い。

「ぼやぼやしてると、すぐ中間だからな。気ぃ抜くなよ」

ぱしんと教科書を閉じると、崎谷先生が教材を抱えた。日直の号令で礼をして、一気に教室がざわめく。教室前方の優斗は、机の片付けもそこそこに沙耶の席へと近づいてきた。

「沙耶。小テストだって」

「…うん」

心配そうな優斗に、大丈夫、と返す余裕も無い。この前受けた連休中の補習と違って、やっぱり授業のスピードになると、どうしても沙耶にはついていけない。教科書と問題集を、ついじっと見つめてしまう。

「…俺、ちょっとだったら、教えられるかもしれないから、教える?」

沙耶の様子を気にして、優斗が提案してくれた。でも、水曜日には世界史の小テストがあるのだ。

「ううん、いいよ。優斗はそれより、世界史の小テスト、やらないと。私はちゃんと家で復習するわ」

「そお?」

二人とも、どちらかと言うと、そんなに成績に余裕のある方ではなかったので、兎に角自分のことをまず先にしなければならない。優斗は、水曜日の世界史の小テストが終わったら、木曜日に少しだけ沙耶の数学を見てあげる、と言ってくれた。

「あんまり気にしないで? 自分の勉強だし…」

笑って言ったが、優斗は遠慮するな、と木曜日の約束をしてくれた。本当にこういうときに、自分で自分の面倒すら見れないのかと、ちょっと自己嫌悪に陥る。