「だってさ、横尾先生なんて、世界史の先生ってだけで、別に担任でもないのに、よく沙耶に話しかけてるし、崎谷先生だって、個人補習とか、普通補習だったら、もっと人数集めてやるじゃん?」

ほんの少し、厳しそうな顔をして、優斗がそんなことを言う。沙耶は全然気にしていなかったことだったから、そんなことを言われて、ちょっとびっくりした。

「…そ、…っかな。でも、横尾先生も崎谷先生も、良くしてくれるよ?」

「うん。だからさ」

ますます優斗が声を低くする。本当に内緒話みたいになってきた。

「沙耶が、先生たちに気に入られてるんじゃないかなって。あんまイイことじゃないけど、贔屓する先生も居るって話だし、沙耶が贔屓されてるってなったら、他の子たちから嫌がらせ受けたり、するかもしれないじゃん」

横尾先生は、三年生の先輩に人気があるし、崎谷先生も、意外と女子受けいいみたいだから、気をつけた方が、良いんじゃないかな。

こそこそと、そんなことを優斗が言った。

優斗は、自分の推論が間違っていないと確信した強い瞳で、沙耶を見てきた。すごく真剣に自分のことを心配してくれていることがわかって、沙耶は逆に戸惑ってしまった。だって、先生たちのことを、そんな風に思ったことなんて一度もないから。

「うん。沙耶がそう思ってないこと、分かるよ。でも、俺から見たら、絶対先生たちは沙耶のとこ、気に入ってるんじゃないかな、って思うよ」

優斗の、真剣な言葉に応えられない。もし優斗の言うことが本当だとしても、沙耶にはどうしたらいいのか分からないのだ。

返事に窮していたら、予鈴が鳴った。優斗は、気をつけてね、と言ってそのまま自席に座りなおしていた。沙耶も席に着く。がらっと音をさせて教室の扉が開くと、前の方の席の優斗がちらっと振り向いて、分かった? とでも言うように、沙耶に対して小さく指で合図を送ってきたけど、沙耶は返事が出来ないままだった。