「ふん」

「……あの、ごめんなさい……」

大きな息をついた先生に、沙耶は思わず謝っていた。先生方だって、ゴールデンウイーク中に学校に出てこなければならないなんて、きっと面倒なことに違いないのだ。なのに。

「ん? ああ、違う。岡本じゃない。…お前はそんなこと気にしないで、勉強に集中してくれたら良いから」

「…ハイ」


沙耶は返事をして、机の上に教科書と問題集を広げた。先生は、沙耶の為に放課後の時間まで使ってくれるというのだ。

穏やかな日差しが差し込む教室で、一人だけの補習を受ける。板書をしていく先生の文字を、間違わずにノートに記す。数式の応用の仕方や、考え方。色々苦手な項目はあるけれど、沙耶の致命的な欠点はケアレスミスの多さだった。

「計算式は何度も見直せ。公式の応用方法を覚えたら、後はもう数こなしてくしかないからな」

「ハイ」

ノートに問題集の問題を解いていく。ひとつずつ式を見直し、計算間違いを直していく。先生は、沙耶の席に寄ってきてくれて、手元を確認してくれた。

「…ここ、8か?」

「違いますか…? ……あ、5なんだ…」

「そう。焦ることはない。ゆっくり落ち着いて」

テストのときは、最初の方の問題に時間を取られすぎて、最後の方の問題が大慌てになる。その結果、式も間違えれば、計算もミスをするという悪循環がいつものことだった。

「今はテストと違うんだから、焦る必要なんて、ないからな。徐々に慣れていけば、良い」

穏やかに言う先生の声に、本当に焦らなくて言いのだと分かる。昔からの苦手意識で数学に取り掛かるときにはいつも焦るのだけど、この先生の声は、そういうことを忘れさせてくれる、そんな声だった。