「ん? どーした?」

この前と同じく、先生が座ったまま沙耶を見上げてきた。いつも教卓に立っている先生の姿を見慣れているから、やっぱり見下ろすのは不思議な感じがする。

「…あの、……その、先生、暑くなかったかなって……」

崎谷先生は最初から沙耶たちの背後に立っていた。もし、先刻の背中の汗の訳が沙耶の思うとおりなら、先生は随分と人が良いと思う。

沙耶が聞くと、崎谷先生は微笑った。

「別に、なんともないからな。途中で戻ったし。それより、お前らこそ、ちゃんと自分の管理は自分でしろよ? 天気も良いんだし、水も飲まずに炎天下に居たら駄目だぞ?」

やっぱりだった。高校生にもなって、先生に迷惑をかけてしまったことが分かって、沙耶は申し訳ない気持ちになった。

「す、すみませんでした…」

ぺこりと頭を下げる。芽衣も、ありがとうございました、と言って頭を下げた。ふ、と息の漏れる音がして、ぽんぽん、と下げた頭を撫でられた。

「生徒を、病気にさせる訳には、いかないからな」

本当にやさしく、そんなことを言ってくれた。多分、沙耶たちが気にし過ぎないように、という心遣いだと思う。きっと、崎谷先生は教師という仕事だから、という訳でなく、沙耶たちの後ろに立ってくれたのだ。

ますます申し訳ない気分になる。すると、そんな気配を察知したかのように、もう一度頭をぽんぽんと撫でられて、ほら、顔上げて、と言われた。

「もー、気にすんな。永山も、これからは、気をつけろよ」

「はーい」

芽衣がにっこりと朗らかに笑って言う。沙耶も芽衣の声に釣られて、顔を上げた。崎谷先生は、やさしく微笑ったままだ。

「帰り、気をつけて帰れよ。今日は良く寝ること」

はぁい、と返事をして職員室を出る。扉を閉めるときにちらっと見た視線の先で、崎谷先生が微笑っていてくれた。