「あ、先生」

「おー、岡本に高崎じゃないか」

「先生も、今日は購買部だったんですか」

「おう。弁当頼み損ねたからな」

先生は、手に持ったビニール袋をがさがさやると、その中からパックのジュースを取り出した。

「岡本。この前言ってたジュース。ちゃんと問題集、復習しとけよ?」

差し出されたオレンジジュースを思わず受け取る。…でも、補習中に問題集を八割は解けなかったから、約束はなしなんじゃないだろうか。

「いい、いい。どーせもう一個買ってあるから。その分、頑張って復習しろよ」

「あ、ハイ」

先生は沙耶に言い含めてしまうと、優斗の方を向いて、おう、と声を掛けた。

「先生。沙耶だけ、贔屓ですか」

「違うって。約束だったからな。それより高崎、今度練習試合だって?」

「そーっす」

「レギュラー落とさんように、頑張れや」

「はーい」

優斗の返事を聞いて、先生は職員室に戻って行った。流石、担任を受け持つ生徒のことは良く把握しているなあと思う。教師って、やっぱり大変そうだ。

「先生っていう職業を、なんか尊敬するわ、私」

「そーかもね。それはあるかもしれない」

二人でそんな風に先生への感想を述べ合った。きっと二人とも、もし選べるとしても、教育学部は志望しないだろうなあと思った。