連休が明けて、校舎は賑わいを取り戻していた。授業も通常通り。教室の窓は開け放たれることが多くなり、五月の風が穏やかに生徒達の頭上を通り抜けていた。

「こら! 高崎! 寝てんじゃねーよっ」

教卓から声が飛ぶ。名指しされた優斗は、腕に突っ伏していた顔をがばっと上げた。教室に小さな笑いがおきて、その時にチャイムが鳴った。

「…っと、ここまでか。よし、高崎…、と岡本で、後で職員室にプリント取りに来い。来週小テストするからな」

テスト、の言葉に教室中から「えーっ」という声が上がる。でも、横尾先生はそれを気にするでもなく、教室から出て行ってしまう。おでこに制服の跡をつけた優斗が、沙耶のところに寄ってきた。

「見事に寝てたね」

「昨日、夜更かししちゃったんだ。どーしても、マンガの続きが気になって」

大きな欠伸をして、優斗がおでこを擦る。沙耶は笑って一緒に優斗のおでこを擦ってやった。

「後でって言ってらっしゃったよね、横尾先生。昼ごはん食べてから、行こっか」

「うん」

そう二人で決めて、一緒に購買部へ行く。お昼ごはんのサンドイッチを買うのだ。
校舎の端にある購買部は、沙耶たちが行くともう既に混雑していて、順番待ちの状態だった。沙耶はサンドイッチとヨーグルトを、優斗はコロッケサンドとおにぎりを手に取ると、会計の為にレジに並んだ。

「ねえ、沙耶。今度の日曜日に、練習試合があるんだ。見にこない?」

「日曜? 見に行っても良いけど、私、ラグビー分からないわよ?」

「良いの、良いの。何となく見ててくれたら。ボール持って走ったら、大声で応援するだけだから」

大声で、は、その場の雰囲気になってみないと分からないけれど、まあ、折角優斗がレギュラーで出られるらしいから、それはちゃんと見てあげてもいいと思う。

「うん。そしたら見に行こうかな」

「やった」

優斗が喜んでガッツポーズをしているところへ、ずらっと行列した先頭から、会計を済ませた人が次々に出てくる。その中からひょっこりと崎谷先生が現れた。