水色の空が、少し白く霞んでいる。春らしいうららかな陽気に、教室の空気も緩みがちだった。教室の正面では、ゴールデンウイーク中の注意事項なんかを、担任が話している。配られるプリント類は、いつもより多く、そのほとんどが校則からの抜粋だったり、職員室からの注意事項だったりしている。

「―――以上、短いとは言え、校則を破ることのないよう過ごすように。課題の提出には遅れないよう注意。各自、プリントを再確認。補習のない者から、帰ってよし」

先生の言葉で、教室のあちこちから椅子を引く音がする。鞄を抱えてあっという間に出て行く者も居た。

沙耶は机の上でプリントを整理しながら、教科書類を鞄に詰め込んでいた。教室の前方の席からやってきて、声を掛けてきたのは、幼馴染で親友の優斗だった。

「沙耶、今日どっか寄り道していこ? 折角で休みになるから、ちょっとくらい良いでしょ?」

にこにこと屈託ない笑みを浮かべながら、脇に鞄を抱えた優斗が言う。沙耶が応えようとする前に、教室の前方から声が掛かった。

「うら、高崎。岡本はこれから補習。余分な時間はないから、お前はとっとと帰れ」

沙耶の代わりに優斗に返答したのは、担任で数学教師の崎谷先生だった。
深い茶色のスーツに、リムレスの眼鏡。髪の毛は少し襟足が長く、切れ長の双眸は黒目がちで、端正な顔を、少し若く見せていた。

「なんなの、崎谷先生。そんなに生徒を邪険にしたら駄目なんじゃないの?」

「事実を言ったまでだ。ほんとに、岡本の点数、中間までにどうにかしないと、マズイからな」

先生に言われて、沙耶もちょっと恥ずかしくて俯く。始業式後の実力テストで、沙耶の数学の成績は壊滅的だった。二年生は、大まかな進路や、三年生の学力別クラス分けに影響のある、重要な時期で、だから先生も、新年度のしょっぱなから、沙耶の成績を気にかけていてくれていたのだ。

「…沙耶、そんなに悪かったの?」

「………学年、下から三番目」

うわ、と優斗が大きな目をより大きく見開く。流石にそこまでと思っていなかったのか、優斗は「じゃあ、頑張ってー」と言い残して、教室を出て行った。