家に着いた。
「ただいま。」
そう言いながら、自分の部屋に向かった。
部屋のドアを開けて、背負っているリュックサック、肩から下げているカバンを床に放り投げて、スマホをすぐに取り出した。
さっき交換したばかりの連絡先。
ホリタという文字をタップして、トーク画面を開く。
》部活お疲れ様!いつも大変そうだね。
そう一度打った文字を全部消した。
さすがに一発目で今日のことを謝らないのはひどいかな。
そう思って打ち直した。
》今日はごめんなさい。本当に申し訳ないことをしたと思ってます。またこれからもっと仲良くなれたらいいな。
そう打った。
でも、嫌なことを掘り返されたくないかな。
でも謝らないと人としてどうかな。
そうずっと考えていると1時間経っていた。
もういいや。送っちゃえ。
そう思って送信ボタンをおそうとしたその時。
ピロン。
スマホが鳴った。
見ると、まっさらだった私とホリタくんのトーク画面に、1つの吹き出しが出来ていた。
》色々困らせちゃってごめんなさい。引いたと思うけど、嫌いにならないで欲しいな。これからも友達として仲良くして欲しいな。

トモダチとして…
その言葉を見た時少し心がズキっと痛んだ気がした。
振ってるくせに、トモダチは嫌だとか、わがまますぎるでしょ。
そう自分にツッコミ、ホリタくんも謝ってきていたから、さっき打った文章を30分くらいあけて送った。
送ってすぐにスマホの電源を切った。
付けているときっと気になっちゃうから。
気になるとスマホばっかり見ちゃって、お母さんに取り上げられちゃうから。
取り上げられちゃったら、そもそもホリタくんと連絡を取れなくなってしまうかもしれないから。
夕ご飯の時間まで勉強しよう。
そう思って問題集を広げて、お気に入りのシャープペンに芯を入れて、勉強を始めた。
嫌なことがあっても、勉強に集中していると何もかも忘れられた。
初めての彼氏に振られた日。
私は普通の人と違うとわかった日。
どの日も泣きながら勉強を始めた。
分からない問題があると、ラッキーだ。
その1問のおかげで何もかも忘れられる。
でも、今日は違った。
嫌なことじゃないからかな。
問題集の上に大きく書かれた基礎問題の文字。
いつもなら見ただけで分かるから飛ばしているけれど、今日はわからない。
わからないんじゃない。
文字が頭の中に入ってこない。
そもそも目に入ってこない。
返信来たかな。
嫌われないかな。
その言葉達が頭の中を占領して、まるで立ち入り禁止区域になっているようだ。
こんなことしてても時間の無駄だ。
そう思った私はとうとうスマホの電源を付けてしまった。