その答えは恋文で


 おそらく、彰くんの好きな人は噂の〝まどか先輩〟で間違いない。それはきっと、夏休み中にバス停で見かけたあの人なのだろう。特徴も一致しているし、仲も良さそうだった。

 私という偽彼女を作った目的は他の女の子からの好意を断ち切り、尚且つ意中の彼女に嫉妬でもしてもらおうと、そういう事だったのだろうか。それとも何か理由があって意中の彼女に自分の気持ちを悟られないようにするためのカムフラージュだったのだろうか。いずれにせよ辻褄が合う。

 ……なんだ、こんなに簡単なことだったのか。こんな事にも気付かないなんて。私、バカみたいだ。

「え? あれ? じゃあ成瀬さんは? あの二人って付き合ってんだよな?」

 出てきた自分の名前に冷や汗が滲む。

「そうなんじゃねーの? こないだの動画お前も見ただろ?」
「見たよ? 見たけどさぁ……」
「見たけどなに?」
「いやさ、平岡が推薦蹴ってまで追っかけて来た好きな人がまどか先輩だったならさ、なんで今成瀬さんと付き合ってんだって話じゃね?」
「……確かに。アイツ成瀬さんに乗り換えた系?」
「美人から美人に乗り換えるなんてまさにイケメンにしか成せぬワザ!」
「ずるい! 俺も彼女ほしい! 孤高の文学美少女ずるい!」
「……あのさ。盛り上がってっとこワリーんだけど、まどか先輩は平岡の──『二年A組佐々木勝!! 大至急進路指導室まで来るように!! 繰り返します、二年A組──』あっ、やっべ!」

 一人が何か言いかけたところで大きな校内放送が鳴り響いた。それはうちの担任のものであり、声を聞く限り相当怒っていることが伺える。

「やっべぇ!! 進路指導の時間二十分も過ぎてた!! 担任に殺されっかも!!」
「は!? お前バカじゃねーの!?」
「とにかく俺行って来るわ!!」
「健闘を祈る」
「骨は拾ってやるからなー」

 私は隣の教室に身を隠し、慌ただしく出て来た男子生徒が走り去るのを待った。

 足音が完全に消えると、私は静かに歩き出す。取りに来た自分の鞄もそのままに、ただただ静かに歩みを進めた。

 今は誰にも会いたくない。今は誰とも話したくない。心が空っぽになってしまったみたいに、何も考えられなかった。

 ……とにかく、今は一人でいたい。

 さっきから何度も鳴り響く着信音がうるさくて、私はスマホの電源をそっと落とした。