「平岡彰はなぁ! 好きな女の子を追っかけてわざわざこの学校に来たんだよ!!」
一瞬の静寂ののち、呆れたような声が相次ぐ。
「……はあ? お前マジで言ってんの?」
「まっさかー。いくらなんでもそれはないだろ。勘違いじゃねーの?」
私もまったく同感だ。普通そんな理由で進学先は変えないだろう。……だけどなんだろう。このもやもやとした嫌な感じは。言い様のない何かが引っかかる。
「いやいやいやいやガチだって!! あの時はマジで学校中大騒ぎで大変だったんだぜ? 突然進学先辞退しますじゃそりゃみんな焦るよな。学校としても信用に関わるだろうし」
「で? 好きな女追っかけてきたってのはどっからきたわけ?」
「いや俺さ、教師が平岡のこと説得してるとこたまたま目撃してさ、そん時に聞いちゃったんだよね。〝あの高校にどうしても会いたい人がいる〟って。平岡は確かにそう言ってた」
彰くんの…………会いたい人? この学校じゃなきゃ会えない人って……それは一体誰のこと?
私の心臓はドクドクと早鐘を鳴らす。胸が締め付けられるみたいに痛くなった。
「まさかうちの学校だったとは思わなかったけどな!」
「……会いたい人ねぇ。それだけで好きな女って判断するのは時期尚早なんじゃないか?」
「でもあの感じは絶対そうだったんだって! 雰囲気的に!」
彰くんの、会いたい人。彰くんの、好きな人。その言葉がぐるぐると脳内を回る。
「あっ!!」
誰かの大きな声に、私まで反応して顔を上げた。
「もしかしてあれじゃね? 三年のめっちゃ綺麗な人! ショートカットで色白くて吹奏楽部の!!」
「ああ! いたいた! そういや一時期平岡と付き合ってんじゃないかって噂になってたよな?」
「そうそう! 仲良さそうだったもんな。俺よく帰りにバス停であの二人のこと見かけたわ。最近は見なくなったけど」
「ええっと、名前なんだっけ……」
「確か……まどか先輩じゃなかった?」
「あー、そうそう! そんな感じ!」
ショートカット……美人……まどか先輩…………吹奏楽部……バス停……。
その瞬間、全てが繋がった気がした。
彰くんがラブレターを貰うのを嫌がっていた理由。好きな人からじゃなければ迷惑という言葉。本当の彼女じゃなくていいという偽彼女の依頼。
その全てが、ようやく繋がった。
彼にはずっと、心に秘めた好きな人がいたのである。

