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「え、何その話。ていうかアンタの行動ヤバくない? 中二病拗らせた不審者じゃんこっわー」
グサリ。先ほどに引き続き見えないナイフが突き刺さる。それは私が痛いほどよく分かっているので出来れば触れないで頂きたい件である。
「つーか受験の時そんな面白い事あったなんてあたし知らなかったんだけど」
「私も今まですっかり忘れてたんだけどさ、受験とお守りの話してたら急に思い出しちゃったんだよね」
どさくさに紛れて再びポッキーに手を伸ばしてみるも、その手はまたしても由香に払われた。……警戒体制がセコム並である。
「で?」
「え?」
「え? じゃないわよ。受験の日に会ったっていうその男子生徒は? 受かったわけ?」
私の頭は真っ白になった。いくら首を捻っても、その答えは出てくることはない。
「……知らない。その人の顔覚えてないし」
「はぁ? 何それ。バカじゃないの?」
「だ、だって会ったのはほんの二、三分だったし……それに試験でそれどころじゃなかったんだから仕方ないじゃん」
「だからってそんなインパクトのでっかいこと、よく今の今まできれいさっぱり忘れられるわよね。普通入学してすぐ思い出さない? ありえないわぁ」
……確かにそうだ。いくら試験でテンパっていたからとはいえ、あの印象的な出来事をどうして今まで忘れていたのだろう。入学式で会えるといいねとか言っておいて……なんて無責任な。そして、彼は無事うちの学校に合格出来たのだろうか。もし合格していれば私と同じ学年に居るはずなんだけど……と、クラスメイトの顔を一人一人照らし合わせてみても、思い当たる顔は見つからなかった。
もし、彼が合格していたら。知らず知らずのうちに廊下ですれ違っているのかもしれない。今こうしている間も、どこかの教室で友達と話をしているのかもしれない。もしかしたら同じクラスになっているのかもしれないじゃないか。
……なんて。まるで少女漫画のような話だな、と自分で言ってて恥ずかしくなってきた。大体、そんなことはあり得ない。さっきも言った通り、私は彼の名前も知らないし顔もまったく覚えていない。それに、もう二年近く前の出来事だ。あっちも私の事なんて覚えていないだろう。
はっと我にかえると、由香が私を見ながらニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
「アンタの考えてる事当ててあげよっか?」
「……結構です」
「あれでしょ? もしその男子が受かってたら少女漫画みたいだなぁとか知らない間に会ってるのかもしれないなぁとか、鳥肌が出そうなロマンチック思考でしょ? アンタって意外とそういうの好きよね。さすが孤高の文学美少女かっこわらい」
エスパー由香、再び。しかもいらない悪口というオプション付き。何故だ。何故そんなにも私の思考が読めるのだ。軽く恥ずかしいんですけど 。
「ほーんと。みんなアンタの外見に騙されてるわよね。中身はただのめんどくさがりなコミュ障なのに」
由香のマシンガンのような口撃で、私のHPはほぼゼロに近い。回復の薬を貰わなきゃ立ち直れないレベルである。
「でも良かった。その話を聞いてようやく謎が解けたわ。……ったく。揃いも揃ってホントにバカなんだから」
「え?」
「あ、やっぱりここにいた」
由香の意味深な言い方に聞き返そうとすると、控えめに音をたてた扉から低い声が聞こえてきた。

