その答えは恋文で


「…………ねぇ」

 気付くと、私は男子生徒の背中に声をかけていた。しゃがんだままの男子生徒が振り返る。

「……それ」

 彼の手の中にある赤いお守りを指差してから、私は自分の手のひらをすっと差し出した。私が持っている赤いお守りにはご利益のありそうな金色の糸で合格祈願という文字がしっかりと縫い付けてある。うん、これならきっと効果はあるだろう。

「私のこれと交換しよう」
「……は?」

 男子生徒は怪訝そうな声を出した。私はお構いなしにずんずんと近寄り、彼の手から赤いお守りを奪って、代わりに私が持っていた赤い色のお守りを半ば無理やり握らせた。ひんやりとした冷たい指先が触れる。

「えっ、あの、」
「…………大丈夫だよ」

 戸惑った彼の声を遮って話を続けた。

「私のと交換したから大丈夫だよ。君は受験に落ちたりしない」

 彼が驚いたのが雰囲気で分かった。突然見知らぬ女にこんなことをされれば驚くのも無理はない。というか、普段の私なら絶対にこんなことはしないだろう。なのに、深夜テンションならぬ受験テンションとでも言えばいいのだろうか。同じ受験生のピンチを目の当たりにして、何かせずにはいられなかったのだ。

「それね。学業の神様が祀られてる有名な神社で買ったやつだからご利益あると思うよ」
「いや、俺は……」
「私のことなら気にしないで。もう一つお守り持ってるから大丈夫」
「そうじゃなくて……」
「試験、お互い頑張ろうね」

 私は彼の赤いお守りを、予備で買っていた自分の青いお守りと一緒に鞄にしまった。学業の神様の強力なお守りと一緒にしていれば、悪い運気はきれいさっぱり浄化されるはずだ。大丈夫、だいじょうぶ。私も彼も神様にちゃんと守ってもらえる。間違いない。

 私はすっきりとした気持ちで立ち上がった。顔の表情も自然と緩む。

「それじゃあ。入学式で会えるといいね」

 私は彼の顔も見ずに、ただそれだけ言って試験会場へと歩き出す。

「あ、あの!」

 背後からの声に足を止めて振り返ると、彼は右手にしっかりと握った赤いお守りを高く掲げた。

「これ! ありがとう!」

 私は少し微笑むと、今度こそ試験会場へと向かって歩き出した。