翌日。登校した私を待ち受けていたのは、全校生徒からの好奇心に満ちた視線の数々だった。

 皆、私を見てはこそこそと小さな声で何かを話しているので不愉快極まりない。一部の女子生徒からは鋭く尖った刃のような、殺傷能力の高いショットガンのような、敵意剥き出しの悪意ある眼差しを向けられているし。

 ……私、何かしたっけ。

 首を捻って思考を巡らせてみるものの、心当たりは特にない。

 だが、その状況は自分の教室に入っても変わらなかった。むしろ空間が狭い分、こっちの方が風当たりが強い。何なんだ、これは。何かあるならハッキリ言えばいいのに。私は見せ物パンダじゃないっつーの。動物園の動物たちっていつもこんな気持ちなのだろうか。ストレス溜まるだろうなぁ。朝から不快指数がマックスである。


「おはよ」


 この異様な空気をサラリと破いたのは、登校してきたらしい隣人の一声だった。

 クラスメイト達は一斉に声の主へと視線を向ける。普段のだらだらした様子とは大違いの、統率の取れた実に見事な集団行動だった。今の動きを体育教師が見たら「お前らやれば出来るじゃないか!」なんて言って大喜びするだろう。

 彼もいつもと違う雰囲気に気付いたのか、不思議そうに首を傾げている。

 私は気分を落ち着かせるため鞄から文庫本を取り出した。

「おはよ、成瀬さん」

 何の気紛れか、隣人こと平岡くんは私にまで挨拶をしてきた。昨日の今日でよく話しかけてこれるなこの人、と内心で呆れつつ、なんとなく無視するのも悪いので、ギリギリ聞こえるか聞こえないかの小さな声で「…………おはよう」と呟く。

 平岡くんは満足そうに笑うと、私の頭にポンと手を置いて席に着いた。

 その瞬間、室内が一気にどよめいた。

 これは今までの比ではない。なんで今この人私の頭触ったんだろう、なんて考える暇もなく、あちこちから「やっぱり本当だったんだ!」とか「これは一大事だ!」とか言う叫び声が聞こえてくる。

 私と平岡くんを除いて、周囲は異様なほどの盛り上がりを見せていた。