「その猫耳、栞里によく似合ってる。気まぐれで警戒心が強くて気品の高い黒猫は、ツンデレな栞里にピッタリだ」
「……なに言ってんの」
急に気恥ずかしくなった私は、付けっ放しだったカチューシャを外そうと手を伸ばす。
「待って」
パシリと、上にあげたその手は彰くんによって止められた。掴まれたところがじんじんと熱を帯びていく。
「……なに?」
一刻も早く外したいのにどうして邪魔するの、という意図を持って彼を見上げる。
「ん? どうせなら俺がそのカチューシャ外してあげようと思って。ほら、呪いを解くのは王子の役目って決まってるみたいだし?」
そう言って彰くんの目が意地悪く細められた。うわ、これ絶対さっきの仕返しだ。私の眉間にぐっと力が入るのを見て、彰くんは笑みを深める。
「では、私があなた様にかけられた呪いを解いて差し上げましょう」
劇の続きのつもりなのか、王子様口調になった彰くんは掴んでいた腕をそっと離した。彼の無駄に整っている顔が思いのほか近くにあって、私の胸はドキリと高鳴る。なんだか急に恥ずかしくなって視線をそらした。
彰くんの手が、私の頭にそっと置かれた瞬間──ぐっと腕を引かれ、私は温かい何かに包まれた。そして、背中に回る二本の腕。彰くんに抱きしめられたのだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「あ、彰く……!?」
「……ごめん。今だけ、今だけだから。……もう少しだけこうさせて」
ドキドキと煩い心臓の音は私のものなのか彰くんのものなのか判断がつかない。ただ、その音はひどく心地よかった。……もっと近くで、この心地よい音を聞いていたい。
私は、返事の変わりに彼の背中にそっと手を回した。
……ああもう、ほんとに。なんてことをしてくれたんだ平岡彰。こんなことされたらもう誤魔化せない。
こんなことされたら……私。
彰くんのこと、好きだって認めるしかないじゃないか。