人通りの激しい廊下を全力疾走し、この異様な光景に驚いたたくさんの視線という視線を全部振り切って私達が辿り着いた先は、誰もいない屋上だった。


「…………消えたい」


 屋上に着くなりそう言ってしゃがみこんでしまった彰くんの両耳は真っ赤に染まっていた。どうやら置き去りにしてきた羞恥心がようやく胸に戻ってきたようだ。そりゃあそうだろう。私だってかなり恥ずかしかったのだ。本人はかなりのダメージを受けているはずだ。おまけにこの王子衣装。

「な、なんで突然あんな事……」
「いや…………渡辺さんが俺のとこに来て栞里が変な男に絡まれてるって教えてくれたんだ。だからすぐ助けに行こうとしたんだけど木村に呼び止められて。〝一般客と揉め事になったら大変よ! ここは穏便に、せっかく王子様の衣装着てるんだからそれを生かして舞台風にうまく丸め込むのが一番いいわ! うちの店の宣伝にもなるしね!〟って言われて即興でセリフ作ってくれて。あとはアドリブでなんとか乗り切ってくれ、とにかく王子様らしく助けて来ればいいからって送り出されたんだ」

 き、木村さん!? これはまさかの木村さんの発案か。 そういえば彼女は演劇部だった気がする。ということは悪ノリしてきた子達は演劇部員だろうか。なんという衝撃の事実。

「それにしても……すごい展開だったね」
「……うん。俺今、正直めちゃくちゃ恥ずかしい」

 いまだに立ち上がろうとしない彰くんにそっと近付く。あんな形だったとは言え助けてもらったのは事実だ。私は素直にお礼を述べる。

「彰くん。助けてくれてありがとう」

 そっと顔を上げた彰くんがようやく普通に笑った。耳にはまだ赤みが残っている。

 一度に色々な事が起こりすぎて、なんだか面白くなってきた。自然と笑いが込み上げてくる。

「ふっ、あはははっ! なんかすごいね。こんな体験ありえない!」

 突然笑い出した私を、彰くんが驚いたように見ていた。

「ふふっ、ごめん。だって王子様と猫耳女が校内を全力疾走だよ? きっとこんな体験二度と出来ないよね。非日常すぎて笑えてきちゃった」
「ははっ。確かに」
「しかも彰くんその衣装すごい似合ってるし。助けに来てくれた時は本物の王子様かと思った。やっぱモテる男は一味違うんだね」
「……勘弁してよ。俺もう王子様の役はこりごりなんだから」
「そう? その割には結構ノリノリだったんじゃない? 〝呪いを解くのは昔から王子様の役目だと相場が決まっているでしょう?〟とか言ってたじゃん」
「それは……相手が栞里だったから」
「……え?」

 彰くんは私の姿をじっと見つめる。