「ねぇねぇ、受付の猫耳お姉さんとは写真撮れないの?」
ほんの少し前にも似たような台詞を聞いたが、今度はまったく知らない声だった。不思議に思って顔を上げると、私服姿の男二人が机の前に並んで私を囲むように壁を作っていた。
「写真は中に居る案内係が担当しております。それ以外の撮影は禁止です」
「そうなの? でも俺らは君と撮りたいんだよなぁ~? どう? だめ?」
「そうそう! ずっと可愛いなぁって思ってたんだよね~」
ニタニタと笑う姿が気持ち悪い。でもここは我慢しなければ。一般人と下手に問題を起こしては後が面倒だ。
「その猫耳も超似合ってるよ!」
「ツンツンしてる感じもネコっぽくていいよねぇ~」
ああもう、しつこい! 無視しているにも関わらず、男二人はガンガン話しかけてくる。
……そうだ。確か木村さんに渡されたマニュアルの中にこういう声掛けをされた時の対処法が書いてあったはずだ。
使わないかもなんて言ってたけど渡しててくれてありがとう。私はパラパラと捲って該当ページを探し出す。
〝もしも迷惑な客に声をかけられたら〟
あった! これだ! 木村さんナイス!
私はそこに書いてある文章をそのまま声に出して読み上げる。
「ええと……〝実は私は写真に写ると眠ったまま一生目が覚めなくなるという呪いをかけられているのです。従って、残念ですが貴方と写真を撮る事は出来ません〟」
読み上げた言葉に、自分自身の動きが止まった。
…………ちょっと待って。なにこの文章。
こ、こんなのただの電波女じゃないか。何呪いって。何一生眠ったままって。これ一体どんな設定なの? これじゃあ私、痛い子のレッテルを貼られてこれからの人生終わりじゃないか。何が対処マニュアルだ!! 全然対処しきれてないんだけど!? こんなのただの羞恥プレイじゃん!!
「呪い? へぇ~それは面白い設定だね。じゃあさ、俺が君にかけられた呪いを解いてあげる。だから一緒に写真撮ろ?」
ま、ま、まさかの電波返し。引くどころか逆にこの話に乗っかってくるとは……相手もかなりの強者である。もうこれ以上私にどうしろって言うのよ。まさかこのマニュアルの続きを読んでこれ以上の恥を晒せと? ただでさえ猫耳カチューシャでダメージを食らい、今の台詞でも精神的ダメージを負ったばかりだというのに……そんなの嫌だ。

