「じゃあ俺そろそろ行くね。栞里ちゃんも時間があったらうちの店来てよ~。ナンバーワンのオレが色々サービスするからさ!」
ウィンクを飛ばしてくる塚本くんに、私はひらひらと手を振った。
塚本くんは戻りがてら、うちの前に並んでいる女の子たちに持っていた薔薇の花束から一輪を取り出し、お店の宣伝をしながらニコニコと渡していた。その姿は街頭によくいるキャッチのお兄さんにしか見えない。ちなみに一輪の薔薇の花言葉は「一目惚れ」。もし、塚本くんがこれを知らずにさらりと配ってるんだとしたら、彼は天性のホスト気質に違いない。わざとだったらそれはそれであざといが。
「ぶふっ!!」
嫌な笑い声が聞こえる。この声は私が最も聞きたくない声だった。
「あっはっはっはっ!! なにその耳! アンタが猫耳とか超ウケる! あっはっはっは笑っていい?」
「……もう笑ってんじゃん」
クレープを片手に腹を抱えて笑い転げる由香を見て、私はがっくりと項垂れる。カシャカシャとスマホで私を連写する音まで鳴り響く。もう勘弁してほしい。
「はぁー、笑った笑った! しっかしまぁ大盛況じゃないの。アンタのクラス」
「彰王子のおかげでね」
由香は虹祭りの時同様、文化祭を満喫しているようで羨ましい限りである。
「つーか何あのリアル王子。なんであんなヒラヒラでキラキラの服があんなに似合ってんの? アイツ前世貴族かなんか?」
私は吹き出した。やはりみんな思うことは一緒らしい。しかし前世が貴族って……いや、あの違和感のなさはもしかしたらそうかもしれない。馬鹿みたいな意見でも簡単に否定出来ないのだから恐ろしい。
「あたしも後で写真撮ってもらおうかな」
「え? 由香が? そんな事言うなんて珍しいね」
「平岡の写真っていくらで売れると思う?」
……うん。由香はやっぱり由香だった。
「ちょっと中の方見てくるわ。ついでに彰王子の王子様っぷりも」
順番も守らず、由香は教室に向かって歩き出した。さすが自由人である。

