がやがやと騒がしい室内はほんの数時間の間に不思議な空間へと様変わりしていた。
シンデレラのコーナーはまるで城の中にある舞踏会の会場そのもので、小道具に指輪やティアラ、パンプスを加工して作ったガラスの靴まで置いてある。当日はお客さんがシンデレラの役で、クラスメイトは執事やメイドの格好をするらしい。もちろん、メインの王子様は言わずもがな彰くんだ。
他にも、白雪姫のコーナーでは七人の小人や毒林檎を持った魔女のコスプレ、不思議の国のアリスのコーナーでは茶会の様子が再現され、子ども向けの戦隊ヒーローコーナーではカラフルな全身タイツにお面を付けた男子たちがグダグダなヒーローショーを披露しつつ写真を撮るらしい。
各コーナーを区切る仕切り板は次の世界へ続く扉に見えるよう工夫されていて、実際、その仕切り板を通り抜けると違う童話のコーナーへ行けるように配置されている。これは、美術班と美術部員の血と汗と涙の結晶なんだそうだ。
教室の入り口にはこれまた美術班の傑作である『コスプレ体験館A-style』の看板が立てかけられている。
明日はいよいよ文化祭当日だ。
今は明日の段取りの最終確認と調整作業に入っている。案内係のみんなは衣装合わせに大忙しだ。サイズを調整したり、小物を合わせていたりと室内のあちこちに色んな格好をした生徒が現れるので、異様な雰囲気に包まれている。
その中で「きゃああああああ!!」という一際高い女子の歓声が響いた。
ぱっと振り向いた先には、欧州の貴族のような格好をした彰くんが立っていた。襟元は段になったふわふわのスカーフ、前から見ると丈の短いジャケットは燕尾服のように後ろだけ長くなっていた。細身のズボンは膝丈のロングブーツにインされ、全体がキラキラと輝いている。
まさに、絵本の中から飛び出してきたような王子様が目の前に現れたのだ。
「すごいっ! 平岡くん予想以上に超似合うー!」
「ヤバいヤバい似合いすぎっ!!」
「本物の王子様かと思ったぁー!!」
「キャー彰王子ー!」
「彰王子あとで一緒に写真撮って!!」
「や、マジちょっと勘弁して……」
あっという間に女子に囲まれた彰くんはその中心で恥ずかしそうに笑っていた。
な……何あれ。王子様の衣装があんなに似合う人、三次元で初めて見たんだけど。もしかしてアイドル? それとも本物の王子様? そんなバカな考えが浮かんでしまうほど、平岡+王子衣装の組み合わせはしっくりきていた。おい、違和感仕事しろ。
「……成瀬さん聞いてる?」
「えっ?」
私の顔を覗き込むようにしていたのは実行委員の木村さんだった。話しかけられていた事にすら気付かなかったとは……申し訳ない。
「まったくも~。彼氏に見とれるのもいいけど、話はちゃんと聞いてよね?」
そう言って木村さんはからかうように笑った。彼氏という言葉に過剰反応してしまい、思わず肩がはねる。