数分後、ガラガラと扉の開閉音がして足音はゆっくりと遠ざかっていく。
足音が完全に聞こえなくなると、緊張の糸がぷっつりと切れた私と神田さんはお互い大きく息を吐き出した。体全体に入っていた無駄な力も自然と抜けていく。い、息苦しかった。身体的にも、精神的にも。
文化祭や修学旅行の時期は告白ラッシュだと聞いた事があるけれど、まさかその現場に遭遇するとは思ってもみなかった。ドキドキと動く心臓はまだ落ち着かない。
扉の磨りガラスに写らないようにと、並んで体育座りをしていた私達の距離は思いのほか近かった。神田さんは膝をぎゅっと引き寄せて抱えると、らしくないほどの弱々しい声でぽつりと呟く。
「…………平岡、告白されてたね」
「うん」
はぁ、と小さく息を漏らすと、神田さんは続けた。
「あたしね、中学の頃からずっと平岡のことが好きなの」
狭くて静かなこの空間では小さな声でもよく聞こえる。
「あたし、誰かれ構わず言いたいことハッキリ言っちゃう性格だから、昔から男子にも女子にも嫌われてたの。話しかけてくる物好きは塚本くらいだったわ。だから、正しいこと言っても意見とか無視されること多くて。でもね、平岡は違ったの。クラスで唯一あたしの味方になってくれた。あたしの話もちゃんと聞いてくれたし、悪いところも注意してくれた。もっとオブラートに包んで物を言えとか人の気持ち考えろとか。あたし、そんな人初めてだったから嬉しくて。平岡のアドバイスのお陰で少しは友達出来るようになったし。最初はただの憧れだったんだけど、気付いたら好きになってた。平岡が皆に優しい事くらい分かってる。あれがただの善意だったって事も、いつまで経ってもただの友達にしか思われてないって事も全部。でもね、やっぱりあたしにとってあれは特別な出来事だったの。だから……」
神田さんが私にこんな話をするなんて予想外だった。
「あの子はスゴいね」
それはおそらく、彰くんに告白した女の子のことだろう。

