その答えは恋文で





 週が明けると、文化祭の準備はいよいよ本格化してきた。今はまだ昼休みや放課後、LHRの時間を使った準備になっているが、来週に入ると午後の時間が丸々文化祭準備に当てられる。

 二日間に渡って行われる我が校の文化祭は、一日目と二日目の午前中までが一般公開され、午後からは生徒のみで後夜祭が行われる。一般公開のメインである体育館では、演劇やらミスコンやらの舞台発表が行われたり、バンドのライブ演奏があったりと、短いながらも中身が濃い。

 まだまだ時間はあるように思えるが、やる事は山積みだ。

 クラス準備に加えてミスコンや有志のライブなど、学校全体のイベント準備も同時進行でやらなければいけないのだから、それはもう大忙しだ。

 撮影班は写真部の子に機材を借りたり上手く撮るコツを学びに校内を駆け回り、衣装班の子はむつむつと手を動かしてそれぞれのコスプレ服や小物の製作に励んでいる。美術班に至ってはだいぶ苦労しているようで、各童話の世界感を出すための内装や背景作りを急ピッチで進めている。

 そんな中、ただの受付係りである私は特に何もする事がなく、ただでさえ浮いてるクラスで更に浮いた存在になっていた。

 慌ただしく動き回るクラスメイトをぼうっと見ているのはさすがに気が引けるので、文化祭実行委員の子に何か手伝える事はないかと聞いてみることにした。

「……あの」
「わぁっ!」

 手の空いている時を狙って後ろから話しかけると、相手が驚きの声を上げる。

「何……って……えっ!? 成瀬さん!?」

 話しかけてきたのが私だと分かると、彼女は更に驚いてみせた。そういえば彼女とは一度も話したことがなかった気がする。

「その……何か手伝える事ない? 私、やる事なくて」
「あ……えっと、そうだなぁ」

 いまだに驚いている様子の彼女は周りをキョロキョロと見渡すと、話し合いをしていた女子の輪の中に入っていった。

「ねぇちょっと。なんか仕事ない?」
「仕事ならいっぱいあるわよ! 今からアリスの衣装作んなきゃなんないんだからね!」
「なら良かった。成瀬さんが手伝ってくれるってよ」
「マジで!? 助かる……って……えっ!? 成瀬さん!?」

 なんというデジャヴュ。先程とまったく同じ反応をされ、皆が一斉に私に顔を向ける。その表情はやはり驚きに満ちていた。私が話しかけたのがそんなに珍しいのだろうか。……だとしたら私、今までどれだけクラスに関わってなかったんだろう。

「あー……じゃあえっと、被服室からメジャーと裁縫箱借りてきてくれる? 採寸しておきたいし」
「うん、被服室ね」
「メジャーは借りられるだけ借りてきてくれると助かるかも。……よろしく」
「わかった」

 戸惑い気味のクラスメイトに軽く返事をして、私はそのまま教室を後にした。被服室はB棟の三階にあるため、ここからだと結構距離がある。急いで取りに行かないと。