だが、流石にコスプレ撮影会のままでは学校側の許可が取りづらいということで、最終的に「コスプレ体験館」という名前になったらしい。ちょっとした印象操作である。

 コスプレ体験館とはまず、教室をいくつかに区切り、そこに不思議の国のアリスや赤ずきん、シンデレラなどの童話をモチーフにしたコーナーを設ける。私たちはその世界観に合った衣装を着てお客さんを案内し、一緒に記念撮影を行う。もちろん、いくつか衣装や小物を用意しておくので、お客さんで着たい人がいれば更衣室で着替えてもらい、その格好で一緒に写真を撮ることも可能だ。教室使用許可を二部屋以上申請するという、大掛かりなものを予定しているそうだ。

 これならSNSが大好きな女子にもウケるだろうし、なかなか良いアイデアだと思う。私は絶対に写りたくないけれど。

 トントン拍子で進む話し合いの中で、私はいつの間にか受付係りに決まっていた。どうやら客引き要員らしいのだが、私なんかでいいのだろうか。愛想ないしめんどくさがりだし、どう考えても客引きには向いていないと思うんだけど。

 コスプレ体験館というだけあって、クラスのほとんどが何かしらの衣装を着るのは必然だった。何しろ各コーナーの案内人は必ずそのコーナーの世界観に合った衣装を身に付けなければならないのだから。黒板にはモチーフになる作品名が次々と書かれていく。その中で、女子たちはさっそく自分たちの着る衣装と、主役である彰くんの衣装を考え始めた。

 女子の多くは彰くんと写真を撮るために出し物をこのコスプレ体験館にしたのだから、衣装決めには熱が入る。

「平岡くんはやっぱり王子様かなぁ?」
「でも和装もいいよねぇ」
「だったら海賊船の船長とかも良くない?」
「あー、それも捨てがたい!」
「吸血鬼とかも見てみたーい!」
「見たい!! てかそれ言ったら執事も見たいんだけど! 燕尾服!」
「もはや童話関係ないけどね!」
「あはは確かに! じゃあやっぱ王子様にする?」
「だったらシンデレラの王子かなぁ?」
「ちょっ! 白タイツだけは勘弁して!」

 彰くんが焦ったように止めに入るが、女子の妄想は止められない。これは本人の意思などお構いなしに決まった衣装をごり押しされるだろう。イケメンは大変だ。御愁傷様である。

 私は受付だから着なくても大丈夫そうだから、ひとまず安心だ。

 話し合いは滞りなく進み、衣装班や撮影班、美術班などの振り分けもされていく。