神田さんの姿が見えなくなると、由香が話を切り出した。
「分かってると思うけどさ、こうなるように仕組んだの全部あたし」
「うん。知ってる」
「色々進展すればいいなぁって思ってやったんだけど……彼女には悪いことしちゃったかな」
彼女が進んだ方向をじっと見つめる。淡いピンク色の浴衣は、もうすっかり人の波に消えてしまっていた。
「……私がこのままニセ彼女を続けていくってことはさ、彰くんの事を本当に好きな女の子達の気持ちを踏みにじるって事なんだよね」
「そうね」
「それって最低だよね。だって好きでもないのに一番近くにいるなんてさ、神田さんの言う通り……私はズルい」
「……ったく。アンタも平岡もほんっとめんどくさいわね」
大きな溜め息をついて、由香は真っ直ぐ私を見据える。
「アンタさ、なんで平岡がアンタをニセ彼女にしたのかって考えた事ある?」
「それは……ラブレターを拾ったのがたまたま私だったから」
「は? ……アンタそれ本気で言ってんじゃないでしょうね」
「え? 本気だけど?」
だって、それ意外にどんな理由があるというのだ。
さっきとは比べ物にならない程の大きな深い溜め息をついて、由香は頭を抱えた。
「アンタそんなんでよく現代文のトップ取れるわよね。信っじらんない」
「……ええっと、ありがとう?」
「褒めてねーよ」
自慢じゃないが、私は理数系はダメだけど文系は大得意なのだ。今回のテストでも現代文と古典はクラスで一番の成績だった。
「はいはーい! かき氷お待たせーっ!」
「遅いんだよこのクソチャラ男!! 待ちくたびれたじゃない!! 氷溶けてたらブッ飛ばす!!」
「そのルール厳しすぎじゃない!?」
かき氷を両手に持った塚本くんと彰くんが戻ってきた。もちろん由香が買って来てくれた彼らに感謝なんてするはずもなく、逆に文句を言いながらすぐに塚本くんから自分の分を奪い取った。さすがに塚本くんが可哀想になってくる。今日だけで由香に一体いくら搾取されたんだろう。他人事だけど財布の中身が心配でたまらない。

