「……いいなぁ。成瀬さんばっかりずるい」
彰くんの隣に居た神田さんがぽつりと呟くように言った。これはきっと漏れてしまった彼女の本音だったのだろう。言った後、はっと我に返ってあわあわと慌てていた。
「なに? もしかして神田も欲しかったの?」
「えっ、やっ、違っ! あ、あたしは別にっ」
「あれは一個しか取ってないからなぁ。……あっ、じゃあ神田にはこれやるよ」
彰くんは景品の中から小さな箱を取り出して神田さんに手渡す。箱の外側には女の子のお洒落アイテム一つ入り! という文字が書かれていた。透明な窓部分から見えるのは、爽やかな薄い水色のシュシュ。
「神田っていっつも髪結んでるだろ? だから使えるかなって思って」
「……っ! あ、ありがとう平岡っ! あたしこれ大事にする!! 大事にするから!!」
「ははっ。そんなたいしたもんじゃないのに大袈裟な」
神田さんは受け取ると、すぐに箱から出してシュシュを手首にはめた。嬉しそうに笑うその頬は赤く染まっている。まさに、恋する乙女の姿だった。
私はどうしてだかその可愛らしい顔を見ていられなくて、思わず視線を逸らした。
「塚本。あたしかき氷食べたいんだけど」
由香は空気も読まず遠慮もすることなく、堂々と言い放った。
「え、由香ちゃんまだ食べんの?」
「うるさいわね。アンタは黙って買ってくればそれでいいの。イチゴ味だから。練乳いっぱいかけてもらって」
「はいはい。神田ちゃんと栞里ちゃんは何がいい?」
「あたしピーチ」
「私は、」
「待って塚本。栞里の分は俺が買うから」
今度は彰くんが私の言葉を遮って言った。何故だか自分で買うからいい、とは言い出せない雰囲気だ。
「何味がいい?」
「えっと……じゃあ青りんごで、お願いします」
「ん。わかった」
彰くんは私の頭をぽんと撫でるとそのまま塚本くんと屋台に向かって行ってしまった。男子二人が抜けてしまえば、必然的に女子三人がこの場に残る。分かってはいたけれど……だいぶ居心地が悪かった。
「……成瀬さんはズルいね」
消え入るような声で、神田さんが呟いた。思わず彼女の方に顔を向けると、神田さんはぼんやりと遠くを見つめていた。
「平岡はみんなに優しいよ。さっきだって、気を遣ってあたしにまでシュシュくれてさ。……嬉しかった。嬉しかったけど、やっぱり成瀬さんは特別扱い。それをこうやって間近で見せつけられてさ。ほんと……嫌になっちゃう」
「……神田さん」
「ごめん。あたしちょっとトイレ行ってくるから」
神田さんはカラコロと下駄を鳴らしながら去って行った。

