そのテーブルの周りには大きなわたあめ袋にりんご飴、チョコバナナ、ポップコーン、たこ焼きにお好み焼き、金魚が数匹入ったビニール袋にスーパーボールなど、祭りの定番グッズが所狭しと置かれていた。その中心で頭にキャラクターのお面を付け、美味しそうにずるずると焼きそばを頬張っているのは間違いなく私の最も親しい友人、渡辺由香その人だった。

 どうして由香がそこに……?

 隣には呆れ顔でその様子を見ている神田さんの姿もあった。今日はトレードマークのポニーテールではなく、高い位置でお団子にまとめられている。ピンク色の浴衣が良く似合っていた。

 由香と神田さんが一緒にいる理由は分からないが、何故由香が今ここに居るのか。その理由はあの様子を見てすぐにわかった。

 ……あいつ、塚本くんに屋台奢ってもらう代わりに私の情報売りやがったな。

 待ち合わせの場所と時間は由香にしか教えていない。会って数分での塚本くんの乱入といい、由香のあの食いっぷりといい、ほぼ間違いない。

 今日の話を塚本くんに教えたのは由香だ。

 おそらく、塚本くんは神田さんとお祭りをまわる口実のため、神田さんは私の邪魔と彰くんに会うため、由香は暇潰しと腹ごしらえのため。これは三人の利害が見事に一致した結果なのだろう。

 やはり友情なんて砂上の楼閣。私は絶望した。

 一つ息を吐き出して、私は由香の元へ静かに近付いた。

「由香」

 名前を呼べばゆっくりと顔を上げる。その顔に悪びれる様子は毛ほどもなかった。もちろん焼きそばを食べる手も止めていない。もぐもぐとリスのように頬を膨らませ、口の中の麺をごくりと飲み込む。

「なんだ。アンタ今日浴衣じゃないんだ」

 開口一番がそれか。他に言うことあるでしょうが。

「それな! マジでそれな!! 俺せっかく栞里ちゃんの浴衣姿が見れると思って楽しみにしてたのにさぁ!! あ、でもモチロン今の服も超可愛いよ? めちゃくちゃすっごい似合ってる!」

 私の後ろに居た塚本くんが待ってましたとばかりに言った。誉めてくれるのは有難いけど嘘くさい。そしてさっきから神田さんの真っ直ぐな視線が怖い。