色とりどりの浴衣の群れは、カラコロと履き慣れない下駄の音を響かせながら同じ方向へと流れて行く。

 会場に近付くに連れてだんだん大きくなる太鼓の音に、威勢の良い掛け声。屋台から漂う芳ばしい香りに、楽しそうな笑い声。これぞまさしく心踊る雰囲気だ。

 老若男女関係なく、此処にいる皆が心底祭りを楽しみにしている気持ちが伝わってくる。年に一度のお祭りなのだ。少しぐらいハメを外したっていいだろう。ワッショイ! ワッショイ!

 かくいう私はまだ待ち合わせの場所に着いてすらいないのに、既に限界を感じはじめていた。祭りにかける人々の想いが熱すぎて正直もうそれだけでお腹一杯だ。歩く足取りは重い。

 そりゃあ、私だって太鼓や笛の音を聞けばわくわくするし、屋台から良い匂いがすればたこ焼きやりんご飴だって食べたくなる。

 だがしかし、そのレベルが違うのだ。周りの熱気が半端ない。インドア派の私にこの空気は熱すぎる。ああ、早く帰りたい。

 そんな私を労うように、ようやく待ち合わせ場所が見えてきた。

 時計を見れば待ち合わせ時刻の五分前。結構ギリギリだ。混雑を予想して少し早目に家を出てきて正解だった。

「栞里!」

 虹ヶ丘通りの門の前に居た彰くんが右手を挙げて私の名前を呼んだ。私は少し小走りになる。

「……ごめん。待った?」
「待ってないよ。それにまだ時間前だしね」

 彰くんは黒い半袖のTシャツに白いブラウスを羽織り、カーキ色の細身のパンツ姿という爽やかなファッションだった。左手首に時計、首もとには少し大きめのリングが付いたネックレスが光っている。

 彰くんの私服姿を初めて見たけれど、客観的に見て普通にかっこいいと思う。その証拠に、ここを通る浴衣姿の女の子達がチラチラと彼を見てはこそこそと話し合い、声を掛けたそうに様子を伺っている。一人で入り口に立っていた彼はとても目立っていたから、それを美男子(イケメン)狩人(ハンター)である彼女達が見逃すはずがないだろう。同時に、隣にいる私を値踏みするような視線が突き刺さって痛い。こんなイケメンの隣を歩くなら、もっとちゃんとお洒落すれば良かったと更に後悔した。

 白い半袖の、ハイウェスト部分で黒いスカートに切り替えられたシフォンワンピース。これ一枚である程度の可愛らしさを演出してくれるという、便利で簡単なお手軽コーデだ。それにウェッジソールのサンダルを履いて、髪はゆるく巻いてある。必要最低限の身嗜みは整えて来たはずだけれど……不安だ。ちなみにリクエストされた浴衣は探しても見つからなかったので早々に却下した。