「その時にさ、あーこの子は今までただ強がってただけなんだなぁ。こんな風に人知れず傷付いて、一人で耐えてきたんだろうなぁなんて思ったらなんかこう……ねぇ?」
照れたように頭を掻くその姿はいつもと違って年相応の男の子に見える。
「それからなぁ~んか目で追いかけるようになっちゃってさぁ。いわゆるギャップ萌えってやつ? いやぁ、女の涙はマジで武器だね」
「……じゃあ、それからずっと神田さんの事?」
「そーそ。中学で麻衣子が彰サマに惚れちゃうずっと前からね。こう見えてもボクはとっても一途な純情ピュアボーイなのです」
塚本くんから軽口がぽんぽんと出てくる。どうやら普段の調子に戻ってしまったらしい。いつも今みたいにしていれば好感が持てるのに。わざとキャラを作ってるのかもしれないけど、損する人だ。
「はいはーい! 俺の話はこれでおしまーい!」
パンパンと手を二回叩いて強制的に話を終わらせると、塚本くんは私の顔を覗き込むように首を傾げた。
「栞里ちゃん。お返しと言っちゃアレだけど、俺からも一つ言っていい?」
「……なに?」
いつものように笑みを浮かべる塚本くんを、私も同じように首を傾げて見やる。
「平岡と栞里ちゃん、本当は付き合ってなんかないでしょ?」
先ほどまでの胡散臭い表情とは打って変わって、私を捉える鋭い視線はまさに百獣の王そのもの。自分で言うだけあって「レオ」の名前は伊達じゃないようだ。自然と眉間に力が入る。
「無言は肯定と捉えるよ?」
随分と自信があるようだった。私は深い溜め息をつきながらぽつりと言った。
「……お好きにどーぞ」
「あ、やっぱそうなんだ?」
疑問で返ってきたその言葉にはっとする。まさか……鎌掛けられた? 不満気な私の表情を読み取ったのか、塚本くんが慌てたように口を開いた。
「違う違う! 別に引っ掛けようと思ったわけじゃなくて! 態度とか雰囲気とか、前からちょっと違和感があったんだよね。確信が持てなかっただけでさ!」
確かに。私は今まで彰くんはおろか他人とあまり関わらないように心掛けてきた女だ。そんな私が突然人気者の彰くんの彼女になるなんて、疑問に思う人が出てくるのは頷ける。
塚本くんの「俺も話したんだからお前も早く話せ」とでも言いたげな視線がうざったくて、私は渋々口を開いた。