「……小学校ん時からの腐れ縁なんだよね、俺と麻衣子」
塚本くんが女の子の名前を呼び捨てにしているのを私は初めて聞いた。
「アイツ昔からああいう性格だからさ。直球で頑固っつーか、思った事はすぐ口に出すし……。とにかくトラブルが多くてさ。友達も少なかったわけ」
小さい頃の神田さんの様子は容易に想像がつく。今の彼女をそのまま小さくした感じなのだろう。間違いない。
「俺も最初は口うるさいし怖いし苦手なタイプの女の子だなーって思って敬遠してたんだけどさ、見ちゃったんだよね」
「……何を?」
「麻衣子がひとりぼっちで泣いてるところ」
塚本くんはへらりと笑った。
「小四の時、理由は忘れたけどクラスのリーダー格の男子と結構激しく対立してさ。女子もほとんど男子側に付いちゃって孤立無援の四面楚歌。結構酷いことも言われてたけど麻衣子も負けずに言い返してたし、ぶっちゃけ誰も気にしてなかったのね。いつもの事だし」
当時を思い出すように語る塚本くんを私は黙って見つめていた。
「その日の放課後俺忘れ物しちゃって教室に取りに行ったんだ。そしたら中に人が居てさ、それも苦手な麻衣子で最初は入るの躊躇ったくらいだったんだけど……なんか泣き声が聞こえてきて。俺すっごいビックリしちゃってさ。だってあの麻衣子だよ? 驚かない方がおかしいよね。でもほっとくわけにはいかないし、思いきってポケットに入れっぱなしだったしわっしわのハンカチ差し出したんだよね」
塚本くんはチャラチャラしている外見とは違って中身は意外としっかりしている。根は悪い人じゃない、むしろ良い人だと思う。
「人がいるとは思わなかったんだろうね。麻衣子もすっごいビックリしててさ。ははっ今思い出しても笑えるあの顔」
当時を思い出しているのだろう。塚本くんが笑った。
「なんか文句のひとつでも言われるかなって身構えてたんだけど意外と素直に受け取ってくれたんだ。ちゃんとお礼も言ったんだぜ? すっげーちっちゃい声だったけど。でさ、人のハンカチ使って散々泣いた挙げ句、泣き止んだ後なんて言ったと思う? 『この事誰かに言ったらあんたの事殴るから!』だよ? 信じられる?」
彼は声を出して笑った。その笑顔はいつもの貼り付けたような顔とは違い、本当に楽しそうだ。

