「塚本くんってさ、本当は私の事好きじゃないでしょ」
窓から視線を外して、塚本くんはゆっくりとした動作で私に顔を向ける。その顔に驚きの色はない。いつも通り、本心を悟らせない偽りの笑顔を見せつけていた。
「ううん、好きだよ? だってボク博愛主義者だもん。女の子はみーんな大好き」
「嘘つかなくていいよ。塚本くんが本当に好きなのは神田さんでしょ?」
そう言うと、彼の笑顔が少しだけ崩れた。前々から思っていたのだ。彼女に対する塚本くんのほんのわずかな態度の違い、見つめる眼差し。
今だって、彼の目は向かいの空き教室でサックスの練習をしている彼女を映していたのだ。こんなの、気付かないわけないじゃない。
「塚本くんが私を好きだって宣言したのは彰くんと私を別れさせるため。私たちが一緒にいる姿を見て、彰くんの事を好きな神田さんがこれ以上悲しまないように」
長い沈黙が続く。
「…………参ったなぁ」
やがて、観念したようにぽつりと呟いた。
「よくわかったね。俺、ポーカーフェイスは得意なんだけどなぁ」
「ポーカーフェイスっていうか胡散臭い笑顔貼り付けてるだけだよね。なんだか道化師みたい」
「道化師か……ははっ。うまい事言うねぇ」
塚本くんは自嘲気味に笑った。
「塚本くんが博愛主義者を気取ってるのも、本当は自分の事を好きだって言ってくれる女の子達を傷付けたくないから。だから特定の彼女も作らず程よい距離でみんなの相手をしている。違う?」
「そう思ってくれてるなら嬉しいなぁ。普通の人から見れば俺はただの女たらしみたいだから」
「心の中では神田さんを想いながら、彼女の気持ちを尊重して自分の気持ちを隠している。顔で笑って心で泣いて、わざわざ道化師を演じて……」
仮面を付けた塚本くんが少しずつ近付いてくる。
「ねぇ、その顔疲れない?」
「んー? もう慣れちゃった」
「否定しないんだね」
「だぁって。何言っても栞里ちゃんには見抜かれちゃいそうだしさぁ」
彼は小さく溜息をついた。