「あー、ごめん。私人混み苦手だから」
「楽しみだなぁ。あ、栞里は浴衣着てきてね。出来れば紺色で花柄のやつ」
……ちょっと。話聞いてた? 私今断ったよね? ごめんって言ったよね?
「あの、私暑いの嫌いだし人混みは苦手だし、そもそもお祭りとか興味ないから」
「行かないの?」
「うん」
「あれ? でも約束したよね?」
「……約束?」
いやいやいや。祭りはおろかどこかに出掛けるなんて約束もした覚えはまったくない。首を傾げる私に向かって彰くんは爽やかに笑って言った。
「テストで七割取ったら俺のお願い一個だけきいてくれるって約束したでしょ?」
ピタリ。私はその場で固まった。
で、出たよ腹黒平岡彰!! 確かに、確かにそれなら約束したけれども!! まさかそれを今ここで使ってくるとは思わなかった。だってそれを持ち出されたら私に選択肢はひとつしかないじゃないか。いや、もしや最初からこれを狙ってのことだったのか? この策士め!!
彰くんはニコニコと笑顔を崩さない。私は諦めにも似た溜息をついた。それを了承と受け取ったのか、彰くんは嬉しそうに声を上げる。
「ふふ。楽しみだなぁ」
「……彰くんって中々良い性格してるよね」
「お褒めに預り光栄です」
「別に褒めてないんだけど」
「そういう栞里は結構毒舌だよね」
……ああ言えばこう言う。ほんと良い性格してる。みんな見た目に騙されてるだけだ。

