隣を並んで歩く彰くんを見ないようにしながら、私はぽつりと言った。
「神田さん……よかったの?」
「神田? なんで?」
彰くんは私が何を言いたいのか分からないらしい。
「話の途中だったのに私と帰ってよかったの?」
私がそう聞けば、彰くんはきょとん顔で「なんで?」と繰り返した。
「別に大した話じゃないし神田も気にしてないと思うし。大丈夫じゃない?」
いや、私が言ってるのはそういう問題じゃなくて……まぁいいや。彰くんが気付いてないのなら仕方ない。モテるくせに、こういう女心には鈍いらしい。
「明日から夏休みだね。栞里は何か予定ある?」
彰くんが話題を変えた。
「積読本を制覇する」
「マジ? どっか出掛けたりしないの?」
「うん。その予定はない」
「ふーん。じゃあさ、お祭り行かない?」
「……お祭り?」
「そう。虹祭り」
虹ヶ丘夏祭り。通称虹祭り。
二日間に渡って開催されるこの祭りは、うちの市最大のイベントだと言っても過言ではないだろう。歩行者天国になった道路の両脇にはわたあめや金魚すくいと言った定番の出店がたくさん並び、昼間はパレードやバンド演奏、夜は揃いの衣装を着た踊り手さん達が祭り囃子に合わせて軽快に踊り歩く。
最終夜には空一面を埋め尽くすような花火が、市内を流れる川から次々と打ち上げられる。その様子は圧巻だ。
特に花火は有名で、県外からも観光客が訪れるほどの盛り上がりをみせる。
最近は面倒だから避けていたけれど、小さい頃は両親と一緒に見に行った記憶がある。
……そうか。夏休み中に虹祭りがあるんだっけ。興味がないからすっかり忘れていた。茹だるような暑さの中、あんな人混みを歩き回るなんて……考えただけで疲れてしまう。

