「栞里が数学で七割以上取れたら、俺のお願い一個だけ聞いてくれない?」
……彰くんのお願い?
それは一体どんなものだろう。はっきり言って想像もつかない。彼の性格上人の嫌がる事はしないはずなので、そんなに心配する必要はないと思うけど……不安だ。
「まぁ……私に出来る範囲の事だったら」
「うん、それは大丈夫。保証する」
唇の端をつり上げて笑う彰くんは、私に軽くプレッシャーを与えているようだった。これ、七割取れなかったら後が怖そうだな。じとりと冷たい汗が滲む。
「はい。じゃあ約束」
「え?」
「あれ? 約束って言ったらこれやんない?」
差し出された右手の小指に戸惑いながらも、私も自分の小指をそっと絡めた。
「はい、ゆーびきーりげんまんうっそついたら」
いつになくノリノリで歌い出す彰くん。指切りなんていつ振りだろう。小学生以来じゃないだろうか。初めて感じた彰くんの温もりに、血液が一気に体中を駆け巡る。どうやら心臓のポンプが張り切って仕事をしているようだ。
私の手が、体が、顔が、熱い。
ゆっくりと離れていくその温かさを名残惜しく思ってしまったのは、雰囲気に呑まれたせいだ。今は恥ずかしくてとてもじゃないけど彰くんの方に顔を向けられない。きっと彼は余裕の表情を浮かべながら私をからかうように見ているのだろう。
「なんか顔赤いけど、もしかして恥ずかしかった?」
……ほらね。こうやっていつも私ばかりが動揺させられる。
ああ、今夜は勉強がちゃんと手につくだろうか。心配でたまらない。