「ご両親には反対されなかったの?」
「うん、特には。親はさ、自分が決めた道なら後悔しないように進めって言ってくれたんだ。でもその代わり学校側がうるさくてさ。最後の最後まで考え直せってしつこく説得されたよ」

 当時を思い出しているのか、困ったように自分の後頭部を掻いた。

「下校時刻になるしそろそろ帰ろうか。送って行くよ」
「あ、うん」

 いまいちスッキリしないが、気になっていた事が少しでも知れたので良しとしよう。誰にだって言いたくないことの一つや二つあるものだ。そこに土足で踏み込んでいくほど私は非常識な人間ではない。

 急いで荷物をまとめる。机の位置を直して戸締まりを確認し、最後に電気を消して教室を出た。

 外は雨こそ降っていないが、全体的に雲に覆われていて薄暗い。夏服に衣替えして少しだけ身軽になった体に、梅雨時期特有のじめじめとした空気がまとわりつく。きっと、期末試験が終わる頃には梅雨も明け、空気も気持ちもカラッと乾いているのだろう。その日が実に待ち遠しい。

「彰くん、勉強教えてくれてありがとう」
「別に気にしなくていいよ。それより大丈夫そう?」
「うーん……たぶん大丈夫だとは思うんだけど」

 今日は金曜日だ。

 土日を挟んで、月曜日からは地獄の期末試験が始まる。私の場合、数字さえ乗りきればあとは心配ないだろう。

「本当にごめんね、迷惑かけて」
「大丈夫。迷惑なんて思ってないから。むしろ栞里に頼られてる感じがして嬉しかったし?」

 彰くんは笑って言った。

「……でも」

 彼は自分の勉強時間を削ってまで私に数学を教えてくれたり、わざわざ手書きの問題を作ってくれたり、色々とサポートしてくれた。赤点を回避出来たら何かお礼をしなくちゃいけないな。

「彰くん、私が目標達成したら何かお礼するね」

 ああ、でも七十点以上が目標点数だったっけ。大丈夫だろうか。

「ははっ。いいのに」
「それじゃ私の気が済まないから。何が良いか考えてて」
「へぇ。……じゃあさ」

 少しだけ間を空けて彰くんは話し出す。