平岡くんが鞄に教科書やら何やらを詰め込んでいる姿を視界の端に捉えながら、私は残り数ページとなった小説に視線を戻した。

 ここまで遅くなったならもう何時に帰ったって同じだろう。それならば、このまま最後まで読みきってしまった方が良いと考えたのだ。

 気合いを入れるように文庫本を持ち直した、その時。

 紙切れの様な何かが、風に乗ってひらりと落ちてきたのが見えた。丁度よく私の足下に滑り込んできたそれは、淡いピンク色をした一枚の封筒だった。

 私はそれをじっと見つめる。

 これはもしや……いや、どこからどう見ても間違いない。好意を寄せている異性に告白するため自分の思いの丈を綴った恋文、所謂(いわゆる)ラブレターというやつだ。

 封筒の色から察するに差出人は女の子だろう。飛んで来た方向から十中八九、これは平岡くんの机の中に入っていたものだ。教科書か何かの間に挟まっていたそれが、鞄に入れる時にするりと抜け落ちてしまったに違いない。

 横目で様子を伺ってみるが、平岡くんはこの手紙の存在に気付いていないようだった。

 ……はて。どうしたものか。

 正直、余計な事に首を突っ込んで面倒事に巻き込まれるのは厄介だ。だからと言ってこのまま無視してしまうのもなんとなく良心が痛む。

 葛藤の末、とりあえず手を伸ばして手紙をそっと拾いあげた。私だって一応女だ。同性として、乙女の純情とやらをこのまま放っておくわけにはいかないし。

 私は読みかけの小説を閉じると、椅子を引いて立ち上がった。

 鞄に荷物を入れ終えた平岡くんは席に座ってスマホを弄っている。