その答えは恋文で






「問三はこっちの公式で合ってる?」
「うん。合ってるよ」

 さっきまで何人かの生徒が残っていたこの教室には現在、私達の他には誰もいない。下校時刻が迫ってきているからだろう。室内には私がプリントに数字を書き込む音と、彰くんが参考書を捲るわずかな音しか聞こえない。

「……ねぇ、彰くん」

 私の声に反応して参考書を捲る手がぴたりと止んだ。彼はすぐに「どこかわからない所でもあった?」とプリントを覗きこむ。が、残念ながら呼んだ理由は勉強ではない。私は彼に気になっていた疑問を投げ掛けた。

「彰くんはなんでうちの学校に来たの?」
「……突然だね」

 不意打ちを食らったのか一瞬驚いた顔をしてこちらを見やる。私は畳み掛けるように続けた。

「有名進学校の推薦断って来たって聞いたよ」
「……その話誰から聞いたの?」
「……風の噂で」

 う〜ん、我ながらひどい言い訳だ。

「へぇ。珍しいね、栞里が他人に興味持つなんて」

 別に平岡彰について興味を持ったわけではない。ただ、何故うちの学校に来たのか、それだけが気になっただけだ。……うん。私が心の中で言い訳めいた事を並べていると、彰くんは顎に手を当て、少し考えてから口を開いた。

「大した理由はないよ。でもそうだな……あえて言うなら自分のため、かな」
「自分のため?」
「そう。完全なる自己満足っていうか、己の欲望に忠実に動いたっていうかなんていうか」

 自己満足の為にわざわざ推薦を蹴ってまでうちの学校に来た、とはどういうことだろうか。この学校にそこまでの価値なんて微塵もないと思うんだけど。謎が深まる。

「まぁ、これ以上はちょっと言えないな」
「……彰くんって秘密ばっかりだね」

 ほんの少しだけ嫌味を含ませながら言うと、彰くんは苦笑いを浮かべる。この秘密主義者め。