その答えは恋文で


 彰くんの教え方は教師よりもわかりやすかった。この数日間でだいぶ問題が解けるようになった気がする。これでxだろうがyだろうがもう怖くない。

 テストが目前に迫っているだけあって休み時間も勉強している生徒は多い。私も少しやっておこうかな、と鞄から単語帳を取り出した。

「栞里ちゃ〜ん!」
「……げっ」

 明るい金髪を視界に入れて無意識に低い声が出た。パブロフも吃驚な条件反射である。

「その反応相変わらずひっどいなぁ! 玲音くん傷付いた!」

 ニコニコと笑いながら言われても説得力がない。手元の単語帳に気が付いたのか、塚本くんはそれを指差す。

「もしかして勉強してたの? エライねぇ」
「塚本くんはしないの?」
「俺? 俺は一夜漬けタイプだからいいの!」

 なるほど。そして後から泣きを見るタイプなのだろう。なんとなく想像出来る。

「栞里」
「うわ、彰サマ来んの早っ! 俺どんだけ警戒されてんの?」

 塚本くんにしては珍しく、困ったような顔で眉尻を下げた。それは私を呼んだ声の主に対しての反応だった。

「はい、これ。昨日のプリントで栞里が躓いた問題抜き出してみた。あとで確認しといて」
「しかも無視!?」

 塚本くんの言葉を軽く無視した彰くんは、何枚かのプリントを私の机に置いた。ちょこちょこと手書きでポイントが書かれているところを見ると、わざわざ作ってくれたらしい。

「あれれー? 彰サマってばいつの間に栞里ちゃんの事名前で呼ぶようになったわけ?」
「いつだっていいだろ。いいからお前教室戻れよ」

 前から思っていたけれど、彰くんは塚本くんに対して態度がちょっと、というかだいぶ冷たい。塚本くんは気にしていないみたいだけど。

「嫉妬深い男は嫌われるよ?」
「……うるさい」
「栞里ちゃん、俺はいつでも栞里ちゃんの彼氏になる準備は出来てるからね? 何かあったらすぐにおいで?」

 塚本くんはここに飛び込んで来いと言わんばかりに両手を広げる。正直ちょっと引いた。