「おはよ。昨日なんかあった?」

 朝一番に顔を合わせると、平岡くんは私にそう尋ねてきた。私がメールをシカトしたから気にしてるのだろう。

「…………別に」

 私は素っ気なく答える。

 正直、彼と関わらなければあんな目に合わなくて済んだのに、とイラッとしてしまったのは仕方のない事だろう。平岡くんが直接悪いわけじゃないのは十分わかっているけれど、原因を作ったのは彼だ。ちょっとくらい八つ当たりしたっていいだろう。

「今日一緒に帰れるかメール送ったんだけどさ。もしかしてなんか用事ある?」
「ごめん。今日はちょっと無理。メールも気付かなかったみたい。ごめん」
「そっか……。じゃあまた今度だね」

 平岡くんはまだ何か言いたそうに口を開いたが、それはチャイムの音と同時に入ってきた教師の大声に邪魔された。





「アンタ馬鹿ァ?」

 ツンデレの代名詞とも言える美少女の有名な台詞を真似た由香は、大層ご立腹な様子で続けた。

「何火に油注ぐような真似してんのよバカ。言ったよね? なんかあったらまずあたしに教えろって。あたしちゃんと言ったよね?」
「…………スミマセンでした」

 わざとらしく大きな溜め息をついた由香がチョコレートを一口かじる。

「まぁ今回はその金髪に助けられたから良かったけど。女の集団だったり男使われたりしてたらどうするつもりだったわけ?」
「……返す言葉もございません」

 いつものように図書室のカウンター当番をしながら由香と談笑していた私は、ついでに愚痴を聞いてもらおうと昨日の話をしたのだが、その話を聞いた由香の機嫌があっという間に悪くなった。

 そしてすぐに私に向かって説教をし始めたのである。だが、由香の言うことは最もだったので私はただひたすら謝るしかなかった。

「いいわ。ハーゲン四つで手を打とう」

 いや多いよ。そして高いよ。アイス食べ過ぎるとお腹壊すぞ。いやむしろ壊せ。

 私にも財布にも優しくない由香だが、彼女なりに本当に、今度こそ本当に心配してくれたらしい。

「で? 平岡はこの事知ってんの?」
「いや……。言ってないから知らないんじゃないかな」
「ふーん。使えない男ね」

 だって、私は平岡くんの本当の彼女じゃない。だから彼に言ったってどうにかなるわけじゃない。助けを求める必要はないのだ。それに男女の場合、女の敵意は女に向くものだ。どうしたって止められない。