さてこの状況、どうしたものか。

 ……あ、そうだ。

 平岡くんに、女の子からの呼び出しが度々あって耐えられないからあの約束は無効にしてくれって頼んでみようかな。実際はこんなのどうってことないけど、精神的苦痛というのは別れるための正当な理由になるだろう。それに、今この子の前で別れを宣言すれば、明日には私と平岡くんが別れたという話は広まっているはずだ。そうすれば私もこの子も報われる。一石二鳥の大名案じゃないか。

「わかった。別れる」
「……はぁっ!?」

 私の答えが不満だったのか彼女が声を荒げる。鋭くつり上がった目が、私をギリギリと睨み付けてきた。……あれ、私何か間違った事言ったっけ?

「……アンタ何言ってんの?」

 貴方の要求をのんだだけですよ、とはとても言えない雰囲気だった。相手の怒りがこちらにもひしひしと伝わってくる。どうやら私は触れてはいけない彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。

「なんでっ……なんで平岡はこんな女とっ」

 そう言って彼女はグッと唇を噛んだ。

「調子乗ってんじゃないわよ! 余裕ぶっちゃってムカつくッ! 彼女ならもっと歯向かって来なさいよ! 意味わかんない!」

 意味が分からないのはこっちである。彼女は私と平岡くんの別れを望んでいるはずなのに、私がそれを承諾すると怒り出すなんて矛盾もいいところだ。ああ、こういうのは本当に面倒くさいし、疲れる。理不尽な逆ギレは続く。

「なんでこれくらいですぐ別れるとか言うの!? ありえない! ってか信じらんない! 平岡の彼女になりたくてもなれない子がいっぱいいるのに! アンタそれわかってんの!?」
「……別に私はなりたくてなってるわけじゃないし」

 あ、ヤバイ。気付いた時にはもう手遅れだった。ぽろりと出てしまった本音が相手の怒りを増幅させてしまったらしい。目が血走っている。ああ、これはあれだ、本格的にちょっとヤバイ。

「ふっ、ふざけるのもいい加減にして! なんなのよアンタ!! あたしはねっ! あたしは、中学の頃から平岡のことがっ!」

 彼女の右手が空中に大きく広げられた。あ、殴られる。