校門までの道を並んで歩いていると、部活動で残っていた生徒達がチラチラとこちらを見てきた。きっと明日になればこの事も言われるんだろうな、と考えて溜息をひとつ。

 人の噂も七十五日。

 この言葉が本当だとすると、噂が消えるまで明日であと七十四日。……まだまだ先は長い。

「成瀬さんの家ってどっち?」

 校門の前で聞かれたので、すっと左側を指差す。平岡くんはわかった、と言って左へ曲がった。

 私ごときに気を使い、さりげなく自分が車道側を歩いているあたりはさすがだと思った。やはりモテる男は違うな、と無駄に感心してしまう。

「成瀬さんって図書委員なんだよね?」
「……まぁ」
「じゃあ放課後はよく図書室に居るの?」
「……まぁ」

 平岡くんの話に適当に相槌を打つ。一刻も早くこの状況から抜け出したくて、自然と早足になっていた。ていうか、私が図書委員だってよく知ってたな。

「…………ごめん」
「は?」

 ふと、平岡くんが歩みを止めて呟く。

 ここで謝るくらいなら最初からしないで頂きたい。そう思ったが、なんだか追い討ちをかけるようだったので口には出さず胸の内に留めておいた。

「あー……やっぱこういうの迷惑だった……よね? ほんとごめん」

 表情を暗くした平岡くんが言った。二人の間に流れる沈黙が痛い。なんで帰るだけでこんなに気を使わなくちゃいけないんだめんどくさい。と思いつつ、私は口を開いた。

「…………別に、そこまで迷惑じゃない」
「マ、マジで?」
「うん。まぁ、めん……びっくりはしたけど」

 危なく迷惑ではないが面倒だとは思った、と本心を言うところだった。私の言葉に平岡くんは安堵の表情を浮かべる。それにしても、平岡くんは好きでもない女と付き合ったり一緒に帰ったりして何が楽しいのだろうか。……やっぱりよく分からない人だ。

 再び並んで歩き出すと、交差点に差し掛かった。そろそろだ。あの角を曲がれば、行きつけの本屋さんはすぐそこだ。同時に平岡くんとはここでお別れである。

「平岡くん、私そこの本屋に用があるからここまででいいよ」
「そうなの? じゃあ俺も行くよ」

 ……は? 私の動きが停止する。

 ……嘘だろ。……頼む、空気を読んで帰ってくれよ。

 天使のようなその笑顔が、今は悪魔の微笑みにしか見えなかった。