……でも、なんて言って断ろう。親が迎えに来るので無理です、とかなら差し障りないだろうか。
ウンウン悩んでいると、一緒に画面を覗いていた由香がしびれを切らしたように「貸して」とスマホを勢いよく奪い取った。ちょ、あんた今ポテチ食べてなかった? ちゃんと手、洗った? 洗ってないよね? それ画面油でべっとべとになるよね? 確実になるよね? あれって拭いてもなかなか取れないんだよ? 知ってる?
由香は油まみれの指をささっと動かして素早く操作すると、あろうことかそのままスマホをぽいっと投げてきた。私はそれを外野に飛んだヒットすれすれの打球をダイビングキャッチする野球選手のように必死にキャッチする。我ながら超ファインプレーだ。
ていうか今の危ないんだけど! 落としたらマジでどうすんだ! 支払いまだ残ってるのに! 私の怒りなんてどこ吹く風、由香がしれっと口を開く。
「彰サマに返信しといてあげたから」
「はあっ!?」
とんでもない発言を受け、私は慌てて送信メールを確認した。
宛先:平岡 彰
件名:
図書室
送信済フォルダの一番上に、これまた点も丸も絵文字もないたった三文字のメールが残っていた。聞かれた事だけを的確に答えた、実に無駄のないメールである。でもちょっと待ってよ。これじゃあ一緒に帰る事を了承したみたいじゃないの!!
またしても手の中の機械が震える。平岡くんの返信の早さはやっぱり女子並だ。
差出人:平岡 彰
件名:
了解。
すぐ行くから待ってて
なんという事だろう。味方の裏切りによって退路はすっかり断たれてしまった。呆然としている私に向かって、由香は真っ黒な笑みを浮かべる。
「こんなに面白い裏事情、あたしに早く話さなかった罰よ」
……あれ、友情ってなんだっけ。走る前に教えてメロス。