「…………げっ」

 画面を開くと、そこには先日アドレス帳に登録したばかりの〝平岡彰〟の文字が並んでいた。

 ちなみに私は流行りのメッセージアプリは使っていない。友達もいないし、唯一連絡を取る両親と由香には電話かメールで事足りるので、アプリの必要性を感じないのだ。話を戻そう。

「何? もしかして彰サマ?」

 すかさず由香が画面を覗き込む。


差出人:平岡 彰
件名:

もしかしてまだ校内に残ってる?


 メールには簡潔にそれだけが書かれていた。由香は画面を見つつ持参してきたポテチの袋をビリリと開ける。念のため言っておくが、いくら好き放題出来るからと言って基本的に図書室は飲食禁止である。

 ……なんて返そう。ていうか私が校内に居ようが居まいが平岡くんには関係ないじゃないか。私は本当の事を言うか、それとも帰ったと嘘をつくか散々悩んだ挙げ句、


残ってる


 という、点も丸も絵文字もオマケに女子力の欠片もないたった四文字を電波に乗せて送った。すると、手の中のスマホがすぐに震える。この返信の早さ……女子か。メールを開いて、私は固まった。


差出人:平岡 彰
件名:

残ってるなら帰り送ってく。
今どこ?


 ……どうしよう。これは一大事だ。

 送ってく、という事は家までの道程を一緒に歩くという事だ。いやいや私一人で帰れるし。むしろ一人がいいし。

 それに今日は途中で本屋に寄るのだ。予約していた新刊の発売日だったので、朝からずっと楽しみにしていた。そんな至福の時を他人に邪魔されたくはない。

 返事はすぐに決まった。ノーだ。