「しっかしアンタがあの彰サマをゲットするなんてねぇ。一体どんな手使ったのよ?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべた由香は完全に面白がっていた。私は返却本を整理していた手を休め、盛大な溜め息をついて口を開く。
「付き合ってないよ」
「……は?」
「だから、付き合ってないよ。平岡くんと私」
由香は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見つめる。
「は? え? だって平岡、教室で堂々と交際宣言したんでしょ?」
「〝本当の彼女じゃなくていい。付き合ってる振りでいいから、俺の彼女になってほしい〟」
「……なにそれ」
「平岡くんと私の密約。だから私達は付き合ってないし、お互い別に好きなわけでもない。私はただの飾り。ニセモノなの」
私はだいたいの経緯を説明した。由香は大人しく私の話に耳を傾けている。
「……なるほどねぇ。大体わかったわ」
話を聞き終えた由香は納得したように何度も頷いていた。
「うんうん。おかしいとは思ってたのよ。面倒くさがりのアンタがあんなキラキラ輝く全校生徒の人気者、アンタにとってまさに面倒の塊みたいなスクールカースト頂点の人間と関わる、好きになる、ましてや付き合うなんてこと、天地がひっくり返ったって有り得ないもの」
我が友ながら随分な言い様である。しかし、それらは全て事実なので反論の余地はない。
「しっかしアンタよくそんな事引き受けたわね。理由も教えてくれなかったんでしょ?」
「最初はちゃんと断ったよ。でも仕方無いじゃん。逃げられない状況に追い込まれたんだから」
「はいそれ建前ー。本音は?」
「……全校生徒にいちいち誤解を解いて回るのが面倒くさかった」
「うん。アンタらしい理由で安心した」
私らしい理由ってなんだ。文句を言おうと口を開くと、カウンターの上に放置していたスマホが震えた。お知らせランプが青く点滅していることから、どうやらメールを受信したようだ。珍しいこともあるものだ。