──彰くんと私は、正式にお付き合いを始めることになった。


 私はその事をこの二人と、あとは一応恋敵であり協力者でもあった神田さんに伝えたのだが、神田さんは舌打ちをしながら「勘違いしないでって言ったでしょ! あたしは平岡の味方なの! 平岡の幸せを願ってるだけで、アンタのことなんてこれっぽっちも興味ないんだから! いちいちそんな事報告しないでよね!! 自慢のつもり? 超ムカつく!」と言い返されてしまった。まぁ、変に祝福されるよりはこの方が彼女らしくていいけれど。

 目の前に座る二人をじっと見据えると、私は小さく口を開いた。

「……二人とも、ありがとう」

 この二人と彼女がいなければ、私は彰くんに自分の気持ちを伝えることなんて出来なかっただろう。

「ふふっ。どーいたしまして!」
「今さら何言ってんのよ気持ち悪い。ほら、お迎えが来たわよ」

 由香が顎を入り口の方に動かすと、そこには彰くんの姿があった。

「みんな揃って楽しそうだね。ひどいな、俺も誘ってよ」

 彰くんはニコニコと笑ってカウンターに近付いてくる。

「やっほー! ようやくお姫様ゲット出来て良かったね、彰王子!」
「もう一発殴られたくなかったら早くそれ連れて帰りなさいよヘタレ王子」
「ははっ。二人とも辛辣だなぁ」
「あたし達もほら、行くわよ」

 塚本くんをズルズルと引きずりながら、由香はさっさと図書室を出て行った。彼女なりに気を遣っているのだろうか。二人がいなくなると、彰くんは私に向かって手を差し出した。

「栞里、帰ろう」
「うん」

 私はその手をしっかりと握る。ぎゅっと握り返される幸せを噛みしめながら、私たちはゆっくりと歩き出した。



〝ありがとう。
 私も好きです。だから、本当の彼氏になって下さい〟


 あの日ここで書いた走り書きの手紙は、私が書いた初めてのラブレターだ。きっともう、彼以外に書くことはないだろう。



Fin.