「聞いた? 彰王子と成瀬さん、別れてなかったんだって」
「聞いた聞いた。ただの喧嘩だったんでしょ? 成瀬さんが、彰王子がまどか先輩と浮気してるって勘違いしたのが原因らしいよ」
「マジ? だってまどか先輩は彰王子の従姉妹でしょ? 去年噂になった時本人たちがそう言ってたよね?」
「うん。まぁ知らない人も多いんじゃない?」
「そっかぁ。でもあれでしょ? 彰王子が進学高行かないでうちの学校来たのって、受験の時に成瀬さんに一目惚れしたからなんでしょ?」
「そうそう!! 王子ってば一途で健気だよねぇ。あたしもあんな彼氏欲しいわ~」

 私は図書室のカウンターを両手でバン、と叩いた。

「……ちょっと。あの噂はどういうこと?」

 目の前にはめんどくさそうにスマホを弄る由香と、ニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべた塚本くんが並んで座っている。

「何よ。嘘は言ってないでしょ」
「そうそう。別れたって噂話されるよりいいじゃん。俺たちは二人のためを思ってあの噂流してあげたんだよ?」

 私が詰め寄ると、二人ともしれっとした表情で答えた。

 先日流れた私と彰くんが別れたという噂話は、ただの痴話喧嘩だったということで落ち着いた。だが、私がまどか先輩に嫉妬したとか彰くんが私に一目惚れしていたとか、色々といらない情報まで付いて回っているのだ。その元凶が、この二人。
 
「人の噂も七十五日。早く()()()()が見つかって良かったね、栞里ちゃん」

 ウィンクを飛ばす塚本くんが腹立たしくて仕方ないが、落ち着いたのは事実なので反論出来ない。

「でもちゃんと付き合う事になって良かった。二人とも拗らせすぎちゃってるからさぁ、一時はどうしようかと思ったよ」
「平岡の奴が予想以上にヘタレでさ。ホント。もっと殴ってやれば良かったわ」

 シュ、シュ、と音をたてながら由香の右手が空を切る。平岡くんの頬の怪我は、予想通り由香のグーパンだったらしい。後から聞いた話によると、彰くんの気持ちに薄々気付いていた由香がハッキリしない態度に痺れを切らし、殴り込みに行ったそうだ。詳細は教えてくれなかったが、彰くんはバツが悪そうに話してくれた。さすが有言実行をモットーとする女、渡辺由香である。