「まぁもちろん断ったんだけどさ。その時に彼女が居るって理由で断っちゃったんだよね」
「……まさかそこで」
「いやいや。確かに誰なのってしつこく聞かれたけど名前は言ってないよ? 成瀬さん嫌がってたし」

 頭の天辺に向かって上昇しかけた血液が一瞬にして全身に戻った。名前は言ってないのか、良かった。さすがの平岡くんもそこまで人でなしではないらしい。

 でも、それならどうして彼女が私になったのだろう。誰かに平岡くんとの会話を聞かれていたのだろうか。さっぱり分からない。

「…………ただ」

 ん? …………()()

 その嫌な接続詞にピクリと顔がひきつる。そんな私に、平岡くんは天使のような笑顔で言った。

「隣の席の女の子だよって言っただけ」


 …………平岡、テメェ!!


 私の体は怒りで震えた。そうだ、彼はきっと嘘つき村の出身に違いない。あるいは詐欺師村あたりだろうか。今すぐ警察に突き出してやりたい気分である。

 たとえその場で名前を出さなかったとしてもそんな事言ったら誰でも私って勘違いしちゃうでしょうが!! だって隣の席の女子は私しかいないんだから!! てかわざとだな!? わざと言ったんだな!? この腹黒似非紳士め!! せっかく戻った血液が一気に上昇した。腹の底から怒りがふつふつと湧いてくる。

「そんなに怒らないでよ。俺だってまさか一日でこんなに広まるなんて思ってなかったし。なんかその子の友達? か誰かがクラスのSNSグループんとこに書いちゃったみたいでさぁ。ほら、これ」

 慣れた手つきで画面を開くと、私の前に白いスマホが差し出された。