私たちが別れたという噂話は瞬く間に広まった。

「聞いた? あの二人別れたらしいよ」
「えー!! 嘘でしょ!?」
「ほんとだって。ほら、隣の席なのに目も合わせないし」
「え、アイツら別れたの? よっしゃラッキー!」

 そんな噂話に聞こえないフリをして、私はいつものように自席で本を読んでいた。それにしても、付き合ったという噂話の時より回るスピードが明らかに早いのは、みんな人の不幸が好きだからだろうか。


〝そっか。わかった。今までありがとう()()さん〟


 私が別れを告げたあとの彰くん、いや、平岡くんからの返事は実に淡々としたものだった。

 まるでそう言われる事を分かっていたように、彼はあっさりと私の言葉を受け入れた。別に引き止めて欲しかったわけではないけれど、何の感情も読み取れない冷たい口調で言われるのは少し寂しいものがあった。この半年間は一体なんだったのだろうかと問いただしたくなる。……まぁ、聞いた所で返ってくる答えは分かりきっているけれど。

 それに、もう終わったことだ。今さら気にしたってしょうがない。

 ただ、戻るだけ。平岡くんのいなかった、ちょっと前までの日常に戻るだけなのだ。だから、大丈夫。

 面白がるような視線、気の毒そうな視線、ザマァ見ろと喜んだような視線。様々な視線から逃げ出すように、私は図書室へと向かった。

 ……のたが。向かった先に居たのは、地獄の底で判決を下す直前の閻魔大王のような顔をした由香の姿だった。そしてその隣には見慣れた金髪。私の姿をとらえると、待っていたかのようにすぐさま口を開いた。

「で? アンタは本当にこれでいいの? 自分の気持ちも伝えないまま、相手の本音も聞かないまま別れて。あとはその〝平岡の本当に好きな人〟って女との行く末を黙って見守るつもり?」

 由香は見るからにイライラしていた。私はただただ口をつぐむ。……だって、今さら何を言えばいいのだ。本当にあなたのことを好きになってしまいました? 私と付き合ってください?

 でも、そんなこと言ったって無意味じゃないか。彼には他に好きな人がいるんだから。私からこんなこと言われたって、迷惑としか思わないのだろう。

「冗談じゃないわよバッカじゃないの。そんなの結局逃げてるだけじゃない。アンタは傷付くのが怖くて逃げただけよ。ていうかねぇ、フラれるならキッパリフラれた方が次行きやすいし未練残んなくていいのに!! なんで言わなかったのよこの意気地なし!!」

 珍しく由香が声を荒げる。

「大体ね、平岡が誰を追いかけてこの高校に来たか、本人の口から聞いたわけじゃないんでしょ!? なのになんで最初から諦めてるわけ!? くだらない噂話に踊らされてんじゃないわよ!!」

 ダン!! 由香がカウンターから勢いよく飛び降りた。

「ああもう、アンタら本当にムカつくわ!!」

 捨て台詞のようなものを残して、彼女はドカドカと図書室を出て行った。