三日ほどたっても私の気分は下がったままだった。彰くんのことも不自然に避けてしまっているし、行動もぎこちない。おそらく本人にも気付かれているだろうけど、こればかりは仕方ない。私自身、こんな気持ちは初めてなのでどう対処すればいいのか分からないのだ。

「空前絶後のぉぉお! 超絶怒涛の博愛主義者ぁぁあ!」
「……………………」
「あれれ~? シカトかな~?」

 どこから私の居場所を嗅ぎ付けてきたのか、やけにテンションの高い塚本くんの声がして、私は読んでいた本からのそりと顔を上げる。何も考えたくない時は何かに集中するのが一番だ。読書は今の私にとって最適な時間だったのに、思わぬ邪魔が入ってしまった。キラキラと輝く髪の毛さえもウザく感じる。

「…………何か用?」
「ううん。しおりんが元気ないっていうから励ましに来ただけッス」
「そう。余計なお世話ありがとう」
「いえいえ!」

 どうやら彼には嫌味も皮肉も通じないらしい。羨ましい脳をしている。

「で? どしたの?」
「……別に」
「うっそだー」
「嘘じゃないよ」
「だって栞里ちゃん、ここ数日ずーっと泣きそうな顔してたよ?」

 私は何も言えなくなった。塚本くんはふわりと笑うとひどく優しい声色を出す。

「何か悩んでるならさ、話してみれば?」

 いつもはチャラいくせにこういう時だけ優しいなんて。塚本くんはずるい男だ。

「ちょっと。それあたしにも聞かせなさいよ」

 よく通る声で堂々と登場したのは由香だった。入り口のドアに体重を預け、腕を組みながらこちらを睨むように見つめている。

「言いたくないなら別にいいって言ったけど、やっぱり気になるのよね。それにこっちから聞かないとアンタ何も話さないでしょ?」

 そう言ってこちらに向かってスタスタと歩き出した。

「あっ、由香ちゃんじゃーん! 空前絶後のぉぉお!! 超絶怒涛の博愛主義者ぁぁあ!! 女子を愛し女子に愛された男ぉぉお!」
「はい却下」
「ひどい! まだネタの途中なのに!!」
「〝超絶怒涛の女ったらし〟にしなさい。あとそのネタ古い」
「しかもダメ出し!? それただの悪口だし!」
「うるさいわね。少し黙ってなさいよ女ったらし」
「……前から思ってたんだけどさ、由香ちゃんって俺にめっちゃ厳しくナイトプールパシャパシャ!」

 塚本くんを冷たい視線で睨みつつ、由香は近くの椅子へと腰を下ろした。