無常にも時計の針は進み、嫌だと思っても必ず明日はやってくる。

 昨日、由香が帰った数時間後に、

 〝今日は突然帰ってしまってごめんなさい。急用が出来たのですぐに帰りました。充電が切れていたので連絡もつけられませんでした。心配かけて本当にごめんなさい〟

 という連絡を彰くんに入れた。由香がフォローしてくれていたようで、彰くんからは渡辺さんから少し聞いたけどすごく心配した、とか無事で良かったという内容のメッセージが届き、特に突っ込まれるような事はなかった。内心とてもほっとした。

 ……心配、か。

 正直、私という好きでもない女の子にこれ以上優しくするのはやめてほしい。そりゃあ勝手に好きになったのは私だから文句を言うのは筋違いかもしれないけれど。でも勘違いするような行動をとる彰くんも彰くんだ。他に好きな人がいるなら、こんな回りくどいことしないで本人に気持ちを伝えればいいのに。半ば八つ当たりのような事を考えているうちに、あっという間に教室の前まで来てしまった。

 心の準備はまだ出来ていない。

「おはよ」

 背後から彰くんの声がする。まったくもう……こんな時に限って……。

「お、おはよう」

 緊張からかいつもより声のトーンが高くなる。彰くんは普段とまったく変わらない態度でにこやかに話し掛けてきた。

「渡辺さんから聞いたよ。昨日お母さんから連絡来て病院に行ってたんだって?」
「えっ?」
「あれ? なんか怪我して病院に運ばれたって聞いたんだけど……」
「あ……ああ、うん。うん、そうなの。でもたいしたことないから大丈夫だよ」

 由香がついたであろう嘘に適当に合わせていると、彰くんの黒い瞳がじっと私を捉えた。

「本当に大丈夫?」
「……うん」
「なんか元気ないみたいだからさ」
「……そんなことないよ」

 そう言って笑ってみるけれど、表情筋はうまく動いてくれないらしい。彰くんの顔も曇った。

「…………やっぱり俺のせい?」

 その問いに、私は答えられなかった。