ピンポーン

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン


 けたたましい玄関のチャイムの音で目を覚ます。ぼんやりとした頭で時計を見ると時刻は午後九時になるところだった。……こんな時間に誰だろう。両親は今日帰りが遅いはずだし、だいたい鍵を持っているのでチャイムを鳴らす必要はない。出るのも面倒だし、ここは居留守を使おう。私は再び目を閉じた。

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン


 ……………しつこい。


 こんなにチャイムを連打されてはうるさくて眠れやしない。私はぼんやりとする頭のまましぶしぶ起き上がる。覗き穴に目をやると、不機嫌を通り越して怒り顔になっている我が友人の姿があった。

 私は慌てて扉を開ける。

「……………」
「由香!? どうし……ぶっ!」

 無言で顔面に何かを投げ付けられた。じんじんぶんぶんと痛む鼻を片手でおさえながら床に落ちた物を見ると、それは私の鞄だった。教室に置きっぱなしにしてきたものである。

「それ。アンタの鞄」

 痛みを堪えている私に向かって由香が言った。

「このあたしがわざわざ届けに来てやったんだからね。感謝しなさいよ」
「………………」
「返事!!」
「…………はい」

 由香に言われるがまま返事をする。確かに届けてくれるなんて思ってなかったし、実際有り難かった。

「……ありがとう」
「さて。突然姿を消した上音信不通になった理由を簡潔に述べよ」

 仁王立ちの由香の背後に般若の顔が見える。恐ろしいけれど、今は何も話したくない。

「…………ごめん」
「……そう。まぁ、言いたくないなら別にいいわ。ただひとつだけ確認するけど、体調悪いとか女子に呼び出されて攻撃されたとかそんなんじゃないのよね?」
「……うん」
「ならいいわ。今回は許してあげる」

 ふっと息を吐いて由香は後ろを向くと、玄関のドアに手をかける。

「帰るの?」
「うん。そうだ。アンタ明日ちゃんと学校来なさいよ」

 こうして釘をさしてくるあたりはさすがだ。私はばつが悪くて視線をそらす。

「それと、彰サマにもちゃんと連絡しなさい」

 由香の口から出た彰くんの名前に過剰に反応して、私の体が強張る。

「……何かあったんじゃないかってめちゃくちゃ心配してたから。あんなに取り乱した彰サマは見た事ないわ。半狂乱よ、半狂乱。今だってほんとはここに来るつもりだったんだからね。ここはあたしが行くって言ってなんとかなだめたけど」
「……うん。ありがと」

 私の反応がおかしいことに気付いたであろう由香は何か言いたそうに口を開いたが、その口は音を発することなく閉ざされた。

 誰もいなくなった室内に私の溜息がこだまする。切っていたスマホの電源を入れると、由香と彰くんからメールと着信履歴がなん十件も入っていた。心配と迷惑をかけてしまったんだな、と罪悪感が募る。

 ああ、私は明日どんな顔して彰くんに会えばいいのだろう。考えただけで憂鬱だ。