狼姫と野獣

どうしよう、気まずいな。

なにか話題を探さなきゃ。



「……あいつってさ、昔飼ってた猫に似てる」

「あ……私も唯は猫っぽいと思ってたの!」



と思っていたら快から話題を振ってくれたので食いついた。



「なんの猫飼ってたの?」

「普通に三毛。20年生きて大往生した」



「20年?長生きだったんだね」と言いながらリュックを背負って教室を出て送迎車が停まっている駐車場まで向かう。

私と刹那は父親が大物ヤクザだから特別に車で送迎してもらっている。

学校は了承済みとはいえ、少し気が引ける。



「快、ごめんね。わざわざ教室に来てもらって」



下駄箱で快とはお別れ。そう思って挨拶したけど納得のいかない顔をされる。



「いいよ全然。ところで、車こっちだよな?」

「え、いいよ。ひとりで行けるから気を遣わないで」

「……」

「快?」

「……こういう時は『ありがとう』って言ってほしい、かな。
そっちの方が嬉しい」



そう言われて自分の発言があまりにも可愛げがないって気がついた。

ああ、もう嫌になっちゃう。

こういうことがあると自分はつまらなくて気の利かない人間だって思い知らされる。



「永遠、どうした?」



身長の高い快が覗き込むみたいにしゃがんで視線を合わせる。

合わせた目は綺麗で澄んでいた。



「ほら、行こう?」

「っ……」



その優しい声でその発言はずるいよ。

唯とあんな話をしちゃったから少し意識してしまう。

ちょっと恥ずかしいけど、分け隔てなく接してくれて嬉しかった。