狼姫と野獣

一旦帰って服を着替えてから港に向かった。

横引きのゲートの前まで来たら、笑顔でこっちに走ってくる男が。

なんと桐谷だった。

副総長になったってのに威厳なさすぎでしょ。



「力さん、お久しぶりです!
俺今月から副総長になりました!レジェンドの名に恥じないように今後も頑張ります!」



車を停めて力さんと外に出たら桐谷が満面の笑みで手を差し出す。

性懲りもなくまた握手を求めているみたい。

……ブレないなぁ。どんだけ好きなの。



「……レジェンドって小っ恥ずかしいからやめてくれ」

「わ……ありがとうございます!」



ついに根負けした力さんは握手をしてあげていた。

桐谷は驚きと興奮が入り交じった笑顔で嬉しそうだ。

お調子者でとても副総長には見えないなぁと思っていたら不意に手首を掴まれて倉庫の方に引っ張られた。



「永遠お借りします。力さん幹部部屋まで来られますか?」

「俺はいいって、ここで待っておく」

「分かりました……おいお前ら、粗相のないようにな」



ふと表情を変えた桐谷は淡々とした声でその場にいた少年たちに命令する。

その一言だけでピリッと緊張感が漂って少年たちは「はい!」と歯切れのいい返事をした。

こういう緩急、ヤクザっぽくて既視感あるな。

でもなんだか桐谷や快にはヤクザなんかになってほしくなかった。

2人にはもっと明るい場所が似合う。